前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
よし、よーし、取り敢えず落ち着け。
落ち着いて状況を乗り越えてみようか。
「じゃ、じゃあ先輩。俺、頑張って執事って役をこなしてみせますから! 先輩のお邪魔しているのは俺っすからね。執事になって欲しいなら、竹光さんところでご指導を受けて立派な執事になってきますよ」
「なあに直接あたしが指導してやる。手取り足取り腰取り、な」
是非ともご遠慮願いたい。
引き攣り笑いをする俺に、悪魔は妖しく綻んできた。
こりゃあ落ち着いて状況を乗り越えられるような光景じゃないぞ。
アタフタしながら抵抗しながら焦りながら回避しないと俺が危ない!
「先輩っ!」
上体を起こそうとするけど、手首がベッドシーツに縫い付けられている。
失敗は確定である。
くそう、女性相手だから本気で抵抗とか絶対無理だし、だからってヤられたら最後、俺は男の責任を取らなきゃなんだし。
ええいっ、こうなったら雰囲気だけでも先輩に満足してもらおう。
最大の譲歩案だと思わないか?!
「シチュエーションは努力しましょう、努力は! だからセックスはなし方向でお願いします。真っ昼間から無理っすから! あ、夜も無理っすからね!」
「それでは面白くないぞ」
「面白いとか面白くないとかの問題じゃないっす! 行為は面白有無でヤるもんじゃないですよ……あーキスまでなんて、どうでしょう?」
「いつもどおりではないか、それ。パターン化しているぞ」
むっと眉根を寄せている鈴理先輩は「マンネリ化してしまうではないか」不服不満を漏らす。
た、確かに、いつも濃厚キスで終わってはいますが、俺は一杯いっぱいです。
攻め女の先輩は満足していないでしょうけど、受け身男には許容範囲を超えちまっています……じゃあパターン化しつつあるシチュエーションとは、ちょい違う形を取ればいいんっすね!
俺だって男だ。
は、腹括ればいいんだろ!
へたれの受け身男だってな、ヤる時はヤるんだぞ。
攻め女を喜ばせることをすりゃあいいんだろ! 先輩を心配させたんだ。これくらい、これくらいは。
それに、俺だって、おれだって、(俺だって先輩に満足してもらいたい)第三者の俺が艶かしく囁いた気がした。
「いいじゃないっすか。パターン化しても。俺は先輩とキスするのはヤじゃないっすよ。先輩はヤですか?」
言わない、普段の俺ならこんな台詞を吐きもしない。