前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
けど本心でもあるんだ。
キスするのヤじゃない。
ヤられている感は満載だけど、ヤってわけじゃ……ああくそう、俺ってやっぱドヘタレの男オンナなんだ。
ここぞというところで決められない。
いや決める。決めてみせるさ。男だろ俺。
軽く向こうが驚いた隙に、俺は押さえ付けられていた手を振り解いて腹筋力を入れた。
どうにか上体を起こすと、乗っかっている先輩に微笑む。
「シます? キス」
目と鼻の先まで彼女と距離が縮まった。
「……煽っているのか?」
迫ってくる先輩の顔がやけに真面目だ。美人さんが真面目な顔をすると迫力があるな。
「だとしたら、貴方はどうします?」
ヒーローはヒロインにどう手を出すのか、自分には見当もつかない展開だとうそぶく可愛くないヒロイン(♂)。
「俺は先輩と交わすキスならいくらでも、シたいと思っているんですよ。こんなことを言う日が来るなんて、もう俺は先輩に落ちそうなのかもしれませんね」
やや優勢に立ったのも束の間、獰猛なヒーロー(♀)が首をやんわりと食む。
尖った歯先が体の肉を食んで、やや痛い。
抱き込むように人の頭を抱いてくる彼女と、真っ白なシーツの海に沈んだ。
小さな背中に腕を回すにも、手首を縛られているために何もできず、なすが儘。流されるが儘。
一つ感想を言わせてもらうなら、む、胸。
その柔らかさと弾力が癖になりそっゲッホ!
先輩、俺、圧死する。幸せな圧死をします。
「鈴理先輩」
名を呼ぶと、「馬鹿みたいに好きだと叫びたくなる」蚊の鳴くような声が返ってくる。
ありゃ、先輩。耳が真っ赤。照れているのかな?
顔を動かして彼女の長髪に隠れた右耳を見つめる。
頬が崩れてしまった。
可愛いところもあるじゃないっすか。
言ったら機嫌を損ねそうだから、絶対に言わないけど。
「空のくせに生意気だぞ。あたしを攻めてくるとは」
ずりずりと体をずらし、両肘を俺の顔の真横に置いた。完全に包囲されたようだ。
本調子を取り戻したあたし様はシニカルに笑い、桜色の唇をさっき食んだ箇所まで持っていく。
肌を吸引された。
ちろちろと舐めては首筋に、シャツの上二つボタンを外し、舌を滑らせては鎖骨に。所有物の証を付けられる。
心配させた一件もあるため、ある程度は好きにさせる。