前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「空が煽ったから、もっと欲しくなった。このあたしを煽るなんて、空も罪だな」
「先輩、貪欲っすよ。キスで止まって下さい。この先はNGっすよ」
「ふふっ、そうだな。あんたが誘ってくるなんてお初だからな。今は此処で止めといてやるさ。今は、な。なにぶん、今日は長いんだ。お楽しみは後だな」
天使の笑みとは裏腹に悪魔なことを仰るんだからこの人……あっれー、もしかして俺、今夜逃げるどころか、準備段階の手伝いをしているんじゃ。
気付くのが遅いと言われたら、いや、この状況を乗り越えるにはこれしかなかったと言うしかないんだけどあぁああああどうしようかなぁあああっ、今更ながら大後悔という三文字が俺に襲い掛かってきているんだけどあばばば!
肉食ヤル気モードに入っている先輩に空笑いをしつつ、俺は目を泳がせて「そうだ!」この両手首の拘束を取って欲しいと頼み込む。
先輩は「どうしようかなー」白々しく考える素振りを見せてきた。
「せっかく空が腕を回してくれているのだし。このままでも、あたしは全然構わないんだが」
「俺が構います! これ、ぶっちゃけ恥ずかしいっすから! そしてその手はいつまで服に突っ込んでいるつもりっすか!」
「これを世間では羞恥プレイ。もしくは束縛プレイと呼ぶんだな。また一つ学習したな」
学習しなくていい。
「先輩っ!」
早く取って下さいと懇願する俺は、先輩の首から腕を引いて、相手の手を服から引っこ抜くと拘束されている手首を見せ付ける。
素早く俺の手首を握った彼女はそれを解いてくれるのかと思いきや、しっかりと手首を握って体を引いてきた。
おかげで俺、ベッドから上体が離れる羽目に。
ああもう、細身のくせに力持ちなんだから!
焦る間もなく唇を重ねられた。
触れるだけのキスだったから、「何するんっすか!」容易に非難できたけど、彼女は形の良い唇で言うんだ。
「キスなら幾らしても良いのだろう?」
……言った俺の負けですよね。分かります。否定もしません。潔く肯定しますよ、すりゃあいいんでしょう。