前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
そういう苦い経験もしたから、勉強で負けたくない。
塾に通っている通っていない、それだけで俺の人生って左右される。
そんなの絶対に嫌だし、努力もしないで道なんて拓ける筈もない。
じゃあ死ぬほど努力して、それでも駄目だったら、進学を諦めて働けばいいじゃないか。
挫けそうな時は、いつもそう自分に言い聞かせていた。
塾に通っていないだけで疎外感を感じる俺も嫌だった。
けれど、内心で塾に通えている皆に羨望を抱く俺もいた。
皆と同じように塾に通いたい、なんて思う俺もいた。
矛盾する俺がいつもいた。
「育ててくれた両親に失礼だって分かっていたのに、塾に通えている皆のことを羨ましがってました。昔から自分達の生活でいっぱいいっぱい、それでも身寄りの無くなった俺を引き取ってくれた優しい人達に申し訳ない気持ちを抱いていました。申し訳ないと分かっていたから、勉強のことに片意地張っちゃって」
「……空」
「両親には別にエレガンス学院じゃなくてもいいって言われてましたけど、そこに行ってどうしても親孝行したかった。あの人達は、」
嗚呼、思い出す。
「子供が恵まれなった分、」
幼い俺がジャングルジムで大怪我を負って入院した時、目覚めて最初に名前を呼んでくれたのはあの人達だった。
まだあの人達が俺の中にとって叔父さん、叔母さんだったあの日、あの時、あの瞬間。
「本当の子供じゃない俺を、我が子のように愛してくれて」
もう実親は事故で死んでいて、俺はその時からもうひとりで、嗚呼、それでも俺はひとりじゃなかった。
実親を目で探す俺を母さんが抱き締めてくれて、父さんが俺を子供だと言ってくれた。違うと否定しても、今日から子供なのだと何度も繰り返してくれた。
泣きながら、自分達の子供なのだと言ってくれた。
「あの人達がいたから俺は今こうして心裕福に生きている」
あの時俺は傷付く言葉を言ったかもしれない。
否定したかもしれない。
なんで実親がいないのだと嘆いた気もする。
それでもあの人達は優しく抱き締めくれていた。いつまで、そう、いつまでも。