前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「父さん母さんが事故で死んだ。幼い俺にはそんな事実、受け入れ難くて……なんで俺はひとりで此処にいるんだろう。そう思った日もあった。後悔した日もありました。なんで俺はあの時、ひとりで……あれ?」
なんで後悔していたんだっけ、俺。
あの時って何の話だ。
今、俺は何を思い出そうと「空」、ふっと優しく頭を抱き締められて我に返る。
視界が潤んでいることに気付いた。
滴り落ちる雫に気付いて俺自身が驚く。
なんで、俺、泣いて。
おかしい、どうして泣く必要があるんだ。実親のことで感極まったのかもしれない。
だけどこれはおかしい、どうしても涙が止まらない。止まれない。
なんで、だ。
なんで、俺はこんなにも涙が溢れるんだろう。
これは懐かしむ涙じゃない。
確かに自責する涙。
俺は後悔している。
何かに後悔している。
でもナニに後悔しているのか。
「俺、忘れている。でもナニを」
何処からか聞こえる、俺のせいだという後悔。
俺のせい、ナニが、俺のせいなんだろう。
どうして思い出せないんだ。俺のことなのに。俺自身のことなのに。混乱と動揺が入り混じる。
そういえば俺、父さんと母さんが死んだ日、何処にいたんだろう。
気付いたらもう入院してたっけ。
気付いたら、今の父さん母さんが俺の傍に、入れ違いに前の父さん母さんがいなくなって。
なあ、父さん母さん、俺を産んでくれた父さん母さん、貴方達が事故に遭った日、俺は何処にいましたか?
「空、大丈夫。だいじょーぶ」
混乱に混乱している俺の背中を擦って、先輩が頬を寄せてくた。
柔らかなソプラノがジンワリと心中に浸透して、優しさと平穏が静かに産声を上げる。
「すんませんっす。なんか、シケ込んじゃって。こんなつもりは毛頭なかったんです。楽しい勉強会にしたかったんっすけど」
「あんたは本当にご両親が好きなんだな。どちらのご両親も大切にして、親孝行息子だな」
「ふふっ、重度のファザコンマザコンって自覚はあります。冗談でも馬鹿にされたら本気でキレますからね、俺」