前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
11. サバイバル激化(俺と先輩の約束)
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ゴッホン。
突然の自己紹介を失敬いたしまする。
ワシの名前は渡邉 竹光(わたなべ たけみつ)。
一般に使われる“渡辺”ではのうて、やや難しゅう“渡邉”という字を書く。
時たまにこの苗字を見ることもあるんじゃが、大抵の方はワシの苗字を口にすると十中八九“渡辺”の字を思い浮かべてくれる。
世間に浸透しているのは“渡辺”じゃからして、皆が間違うのも仕方が無いのう。
竹光のことワシは、竹之内家の執事として、かれこれ数十余年勤めてまいった。三十年は軽く越しているのう。
じゃからして竹之内家のことならなんでも知っている。
住まい、別荘、勤め先に取引先、なんでも脳に詰まっておる。
つまりはベテランもベテランじゃ。
一応長年の実績で執事長を任されておる。ありがたやありがたや。
重役を任されているからには頼られることも当然。
毅然と下の者達に竹之内家のことや立ち振る舞いを指導しておる。
それ故、一部の者から鬼じゃと呼ばれることもあるが……これも竹之内家ため。使いの一端者として、恥にならぬよう愛の鞭を振るわないと雇い主の旦那様方にご迷惑が掛かるじゃろう?
じゃが……熱意が空回りすることも多々。
ワシ自身にちと問題があって、すぐトラブルを起こしてしまうのじゃ。
自覚しているんじゃぞ、せっかちで早とちりな面があるということは!
先程も、申し訳ないことに三女・鈴理お嬢様の彼氏様にお名前・用件も聞かずビシバシ指導してしまって。
客人を働かせてしまうとはなんったる無礼!
空さまは寛大な方で、笑って許して下さったがワシ自身が許せぬ失態じゃ。
日々精進じゃな。
もっと精進して、手本となるような執事にならねば!
「はてさて、そろそろお食事の時間じゃが。空さまは普段、いつ頃取られるのかのう? お嬢様、竹光です。入りますよ」
夕食のことを聞くべく、ワシは鈴理お嬢様の部屋の前に立ってノックをしていた。
召使達によるとお嬢様は空さまとお部屋にいるそうじゃが……うーむ、何度ノックをしても応答がない。耳を澄ましてみると、声は聞こえるのじゃが。
もしかしたら談笑に耽っているのかもしれんのう。
鈴理お嬢様は普段、家内にいる時はとてもクールで、口数が少なく、誰とでも一線引いてしまう方なんじゃが、空さまの前じゃ饒舌のようじゃ。よく喋られておる。