前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
空さまの行方不明事件の一件でも惜しみなく感情を曝け出したからのう。
空さまのことを本当に想われておるのじゃろう。
許婚の大雅さまのことが気掛かりじゃが、とにもかくにも鈴理お嬢様が楽しそうで竹光も嬉しゅうございます。
何度ノックしても応答が無いため、「失礼します」ワシはドアノブを回して中に失礼する。
「だっ、だから無理っすっ! 許して下さいっ、勘弁っすよぉおお!」
「おとなしくしろ。なあに怖いことは何もしないぞ、そーら」
絶句とは、今のワシのためにあるものだと思いましたぞ。鈴理お嬢様。
扉を開けた先に待っていた光景は、フローリングに座り込んでいる空さまを無理やり押さえ付けている鈴理お嬢様の姿。
付近に空さまの私物であろう、チェック柄のシャツが転がっていた。
よって上半身のお姿は白の下着シャツになっておる。が、それもお嬢様が無理やり脱がせようとしているのか、首口が伸びておった。右肩が剥き出しじゃ。
「せ、先輩っ。俺じゃキモイっすよ! ほんとっ、吐き気がするだけっすから!」
「寧ろ興奮してしまいそうなあたしが」
「先輩ィイイイ! 俺を好きと仰ってくれるなら、どうかご慈悲をっ、うわぁああ竹光さんっ!」
頓狂な声音を出す半泣きの空さまは、ワシの姿に気付いて、「ち、違うんっすよ!」赤面する。
何が違うのか、説明する余裕もないのか空さまは違うを連呼しておった。
一方、鈴理お嬢様は不機嫌に此方を見て、「馬鹿者」ノックくらいせんかと注意を促してくる。
竹光は何度もノックをしました、お嬢様。
「竹光、いつまで突っ立っている。空は着替え中だぞ。出んか」
「あっ、はい。失礼しました!」
「ちょっ、竹光さんっ!」
慌てて頭を下げたワシは急いで部屋を出ると、自分の失態にやれやれと肩を落とす。
今日は失態ばかりじゃのう。
空さまを新人と間違える、ビシバシ指導してしまう、着替え中にお邪魔してしまう。
精進が足りんのう。
そう精進…………ワシは冷静に状況を判断した後、一呼吸。
再び扉を開けた。
失礼じゃが今度はノックをしなかった。する余裕もなかったのじゃ。
何せ、お嬢様がしていることは、
「鈴理お嬢様ぁアアア! そういう淫らな行為は竹光、断固反対ですじゃああああ!」