前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「――だから何度も言っているだろう、竹光。あたしは空を着替えさせようとしていただけであって、べつに行為に走るつもりなどまったくなかった。まあ、片隅に目論みはあったが」

「あのような状況で着替えなど、誰が信じられますかのう! しかもお嬢様、空さまにこれを着させるおつもりだったのですか!」


「可愛いだろう? メイド達に新しいものを用意させたんだ。やはり空はロングだと思ってな。丈も空に合うよう、あらかじめ大きめに作らせておいたんだ」


意気揚々に語る先輩に、「お嬢様というお方は」竹光さんがこめかみに手を添えて溜息をついた。


「昔からおてんばなところがありましたが、まさか恋愛に関してこんなにも傍若無人で雄々しい方だったとは」


苦虫を噛み潰したような面持ちを作りつつ、竹光さんは服をイソイソと着直している俺に同情を込めて視線を送ってくる。
 

同情するなら、もっと早く助けて欲しかった。竹光さん。


心中で溜息をつく俺は、ソファーに投げられた服に目を向ける。

そこには藍色のワンピースとフリルの付いた白いエプロンを組み合わせたエプロンドレスが放置されていた。


世間ではこの服をこう呼ぶだろう。“メイド服”と。



事の始まりは数分前。

すっかり良いムードを作り恋人オーラを醸し出していた俺達は、その空気のまま勉強を再開。

和気藹々裡に会話を飛び交わせ、勉強に勤しんでいた。

おかげ様で苦手な化学が少しずつ掴めてきた俺は、何とか来たる中間テストを乗り越えられそうだと安堵。


俺の様子に先輩も、

「大丈夫だ。あんたが思っているほど理解していないわけじゃないぞ」

と励ましてくれた。
 
「だけど根詰めてやっても脳に定着するわけじゃない。少し休憩しよう」

彼女の気遣いに俺は微笑して、その案を受け入れた。

苦手な理科系は特に毎日集中して勉強をしていけば、きっと良い点数が取れる筈。努力を怠らず、毎日頑張ろう。

 
決意を心に刻んでいると、「気分転換でもするか」先輩が手を叩いて立ち上がった。

散歩でもするのかと思ったんだけど、鈴理先輩はクローゼットの方に歩んだ。


気分転換で、クローゼット?


もしかしてクローゼットの中にパーティーゲームとかでも入ってるのかなぁ、とか安易なことを思っていた俺は先輩が手にしたモノにギョッと驚く。

だって先輩が手にしていたモノは召使の晶子さんが着ていたものと同じ、メイド服。

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