前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
いや、なんとなく此処のメイドさん方が着ている服よりも可愛らしくなっているような気が……ま、さ、か。
「空の執事姿を見ることができたんだ。是非ともメイド姿も見たい。以前携帯で見せたアリス服は、まだネットで注文中でな。こちらの手に届いていないんだ」
だから空、今日はこれで我慢してくれ。
と、まるで俺がいかにも女装をしたいかの如く言ってくれる先輩は、そのケッタイな服を片手に踵返して戻って来る。
はてさて危機が迫った俺はというと、にこやかに涼やかに、開いていたノートを閉じると腰を上げて、先輩とは反対の方角。
つまりは出入り口に向かって早足で逃げた。
嗚呼、全国の男子諸君に問いたい、この状況が仮に自分の身の上に降りかかったらどう対処する? と。
十人の男子に問うたら、きっと九人は確実に俺と同じ行動を取るに違いない。
しかし残念なことに、ガシッと背後から肩を掴まれ、逃げ道を軽く封鎖された俺は千行の汗を流すことになった。
意を決して首を捻り、俺は取り敢えず自分の気持ちを率直に吐く。
「俺、そういう服は着たくないっす。美形でも可愛い系でもない、平凡面の野郎が女装だなんて、そんなそんな」
「何を言う。空が着ればきっと可愛いと思うぞ。それに約束したではないか。あんたが大雅と昼飯を食った日、あたしではなく大雅を選択したあんたに仕置きとして女装をさせると」
それは約束じゃなくて一方的な脅しっす。
ブンブンと首を横に振る俺は一歩また一歩後退して、どうにかこの状況を打破しようと思考を目一杯稼働。
その間にも先輩は俺に詰め寄ってくる。
「これは仕置きだぞ?」
黙って着ろ、さあ着ろ、命令だ。
いかんなくあたし様を発揮してくる先輩に、何度も首を振って抵抗を試みる。
「お、俺は先輩のメイド服姿が見たいです! そっちの方が目の保養になるっすよ!」
想像して、ちょっとトキメキを覚える残念な俺がいる。
いやいたく真面目な話、絶対に可愛いと思う。先輩のメイド服姿。
先輩は女子が羨むダイナマイトボディだし、着ればさぞかし全国の男子諸君を喜ばせるような萌えが発生することだろう。
俺だって彼女に萌えた……ゴッホン、彼女の可愛い姿に見惚れたい。癒されたい。目の保養が欲しい。