前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
でも、今は違う。
貴方は俺を好きと言ってくれた。
困った攻め攻めを見せてくれるくらい、好意を寄せてくれた。何よりも俺の傍にいてくれる。
「俺は貴方の気持ちを信じています。例え、貴方のご両親に言われようとも遊びで傍にいてくれているなんて一抹も思いません。だから、安心して下さい。俺は貴方の気持ちに疑心なんて抱いてませんよ」
沈黙。静寂。閑寂。
どれが似つかわしい言葉だろう。
俺は静まり返る空気に抱かれながら、相手の反応を待つ。
ただひたすら前を見つめている彼女は、微動だにせず佇んでいたけど、不意に歩みを再開する。
俺は黙って相手の歩調に合わせた。
ちょっと後ろを歩きつつ、ダンマリの先輩と足並みを揃える。
きっと腕には先輩の手形がついているだろう、その握ってくる握力の強さに痛みを感じながら、俺は先輩と回廊を歩き続けた。
何処に向かっているか? それは先輩の御心のままに。
どれほど歩いたのか、見慣れない回廊をひたすら歩き続ける先輩は、外界が見える渡り廊下を渡り始めた。
夜風が吹き抜ける渡り廊下の向こうに見えるのは、池? いや水辺?
末端ではテラスのような場所が俺達を待ち構えていた。
そこのほとりで、俺と先輩は腰を下ろす。
縁に座っているから、俺の足元ちょい先には張られた水面が顔を出している。
そしてそれは夜風に吹かれて小さく波立っていた。
外灯があるから、視界はそんなに悪くない。
テラスの周りに植えられている花々から隅から隅まで結構見えていたりする。
向こうに花達は静かに眠っているように思えた。
寝息を立てているであろう花達を恍惚に眺めて、「綺麗な場所ですね」俺は相手に話し掛ける。
返事はそんなに期待していなかったけど、
「お気に入りの場所なんだ」
ようやく先輩は重い口を開いてくれた。
「何か嫌な事があったら、水辺のテラスに来て気持ちを落ち着けるようにしている。水を見ていると落ち着くんだ。此処でうたた寝なんかもよくする」
「風邪ひくっすよ。そんなことしたら」
「そのことではばあやによく叱られる」
やっと微苦笑を零すまでになったらしい。
先輩は困ったように笑った。
そしてさっきの詫びを、ここでもう一度告げてくる。