前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
俺はその詫びを受け取らず、ちょい彼女の心に踏み込んで、「先輩は寂しかっただけっすよね」話題を切り出した。
「俺には兄弟とかそういうのがいないっすからよく分かんないっすけど、でも何かと家族同士で評価とか、期待とかで格付けされたら寂しいと思います。
そしてご両親に思いが伝わらないってのはもっと寂しいもんだと思うっす。さっきから思っていましたけど、先輩、ご家族と一緒にいる時は凄く寂しそうっす」
それを見ていた俺も寂しい気持ちになった。
苦笑いを零して彼女の瞳を見つめる。
こっちをジッと見つめ返してくる先輩は、ちょい困惑した目で「なんで分かるんだろうな」参ったと潔く白旗を挙げた。
先輩は教えてくれた。
期待に応えられない自分も嫌だったけれど、それ以上に家族同士で期待のランク付けをされるのが嫌だったんだと。
昔はそんなこともなく、家族で和気藹々と談笑していたのに、いつからその時間さえ期待のランク付け会合になってしまったのか。
上下を決めてしまえば、必ず疎外感を抱く者がいる。
自分がそうだ。
期待に応えられない自分は両親にとって不要物なのではないかと疑念を抱くことも多々。
一体今、自分はなんのために習い事こなしているのか。此処にいるのか。竹之内家三女として居座っているのか。
分からなくなってしまう事があるという。
ポツポツ吐露する彼女は、「令嬢なんてやめてしまいたい」そっと弱音を漏らした。
「財閥でなければ、もう少し居心地の良い家庭だっただろうに。それに財閥のため、令嬢として習い事ばかり。時間に追われてばかりだ。
正直に言うと性格上、あたしの肌には合わない生活だ。本当の意味で家族や自分の時間が欲しいよ。と、こうして環境に卑屈になってしまっても仕方が無いのにな。空とは大違いだ」
「そんなことないっすよ。情けない俺をさっき見せたでしょう? 結構卑屈になってますよ。親の前じゃ絶対出さないだけで、取り巻く環境や周囲のことで卑屈になったり、内心で金があればぁああ! とか思ったりすることも多々っす。先輩と同じっすよ」
「そうか」「そうっす」顔を見合わせて、笑声を漏らした。
生きる環境が違っても、案外悩みって共通してたりするもんなんだ。
貧乏学生の俺も、金持ち令嬢の先輩も、家庭環境で一喜一憂している。