前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
勿論、卑屈だけじゃなくて、この環境で良かったって思えることも沢山ある。先輩もきっと一緒だ。
ただ大人になるにつれて世界の視野が広がり、伴って感情も複雑化していく。
だから卑屈になることも多々。子供の頃よりも多くなる。それだけなんだ。
やっといつもの先輩らしく笑ってくれてホッとしていると、
「空は不思議な奴だな」
彼女は俺にこうのたまった。
「絶対に話したくない弱い一面まで、あんたになら話してしまう。不思議な奴だ」
それはお互い様だ。
「俺だってそうっすよ」
目尻を下げて、語り部になる。
「高所恐怖症のことも、両親のことも、今まで誰にも話したこと無かった。家庭環境での卑屈だって、先輩が初めてっす。先輩は本当に不思議な人っす。いつの間にかこんなにも心に入り込んでいるんっすから
――だから、ねえ、先輩。
もっと先輩に触れてみてもいいっすか? 体じゃなくて、先輩の心に。俺はもっと貴方のことを知りたい」
初めて伝える、俺の欲情。
優しい夜風とあったかい外灯の光、そして目を削いでいる先輩の面持ち。
全部が全部、水辺のこの世界に溶け込んでいる気がした。
俺達を映し出している水面が、俺の台詞に恥ずかしそうな顔をして波打っている。
同じように先輩も不意を突かれたような顔をして、やや赤面。
「それはあたしが言う台詞だ」
ナニをカッコつけて言っているんだと毒づかれる。
「空は受け身男なのだぞ、そういう台詞を聞いて胸キュンする立場なのだぞ、ええい、なんだこの敗北感」
ぶうたれている先輩に、
「たまにはいいじゃないっすか。今だけ男のポジション譲って下さいよ」
苦笑する。
「絶対にヤダ」
フンっと鼻を鳴らすは、頬を赤らめたまま自分は攻め女なんだと大主張。
攻める立場であって、攻められる立場ではない。ああないとも。
ケータイ小説のイケメン男子のようにカッコイイことを言うのは自分なんだと。胸キュンさせるのは自分なんだと。