前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
ということは、先輩。
今の俺の台詞に胸キュンとかきちゃっているのかな?
赤面する珍しい彼女の姿に笑っていると、「くそっ」まだ悔しそうに舌を鳴らす先輩が俺の手を掴んできた。
ぎゅっと握って距離を詰めてくる様子に、俺は新たな一笑を零す。
先輩なりの照れ隠し攻めなんだろうな。
手を握り返して俺は彼女に仕掛ける。
「また家族のことで寂しくなったら、俺のこと、思い出して下さいね。先輩は不要物じゃない。俺には必要な人です」
強く手を握り締められた。返事はない。期待はしていなかった。
返事がなくたって分かるんだ。先輩は今、きっと悔しそうに赤面しているに違いないんだから。
熱が帯びる結ばれた手をそのままに、俺はただただ先輩と水辺のテラスで時間を過ごしていた。
ゆるやかに流れる時間の中で、俺達は手をいつまで結び合っていたんだ。いつまでも、そう、
「うああぁあああやはりあたしが攻める方がいい! なんでこんな小っ恥ずかしい思いをしないといけないんだ! 空、あたしに今触れたいと言ったな? だったらあたしもあんたに触れる権利はあるだろう! というか、権利はある! 所有主なのだから!」
いつ……ま、でも、そうだったら良かったのにね!
「先輩っ! なんでイイムードを自分から打ち消すようなっ、ど、どっこ触っているんっすか!」
「空の腰だ! ついでに背中も触ってやる!」
「ぎゃっ、先輩のエッチィイイ! 服の中に手を突っ込むとか論外っす! 俺は先輩の心にっ、触りたいっ、うひゃっ!」
「今のは嬌声か!」
「違うっすよ! 擽ったかっただけっす! マジでど、どこ触ってッ、こ、これ以上好きにはわわわわああああ?!」
パッシャン―!
水辺に落ちた俺は座り込んだまま、腰まで水に浸かっている現状に溜息。
「大丈夫か?」
落ちた俺に一笑し、逃げるからだぞ、と手を差し伸べてくる先輩にまた溜息。
あーあーあー、どーしてこうなるんだろうね。
折角先輩の前で男を見せたっていうのに、結局カッコつけることもできなくてお水にどぼん。
俺って男の風上にも置いてもらえないのか?
受け男はおとなーしく女のポジションにいろって? ははっ、むない。
でも、ま、
「空。ほら、手」
「あざーっす。麗しき俺のカレシさま。手の掛かるカノジョで申し訳ないっすね」
しっかりと手を握ってくる先輩の笑顔で、なんか全部がどーでも良くなった。
先輩はやっぱこうして笑ってくれている方がいいや。困った攻め女でもさ。