前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
12. サバイバル本番(え、マジでヤるの?)
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前略、今日も不況に抗っていたであろう父さん、母さん。
あなた方の息子、空は今、現実の厳しさを痛感しております。
男を見せるというのはとてもとても難しい、と。
特に相手が男前、じゃない、女前だと、仮にカッコを付けてもその後、自分が男のポジションに立ちたいだのなんだのヤンヤン騒いで、結局息子は男を見せられず……だったのです。
まさか水辺に落ちるなんて、どんなお笑い話でしょうかね?
それはさておいて、俺は今、先輩の家で見事に迷子になっています。
何故か? 理由は簡単です。
濡れた体が冷えるといけないからという理由で、お風呂を借りようと思い、先輩の自室から荷物を持って歩いているのですが、非常に不味いことに、迷ってしまいました。
嗚呼、お風呂場や、嗚呼お風呂場や、一体貴方は何処にいるの?
「……此処は、何処だ?」
歩いても歩いても辿り着かない回廊に足を止めて、俺は参ったと額に手を当てた。
あれほど先輩に道を教えてもらったというのに、迷ってしまうとは迂闊だったなぁ。
先輩に頼んでお風呂場まで案内してもらえば良かったかもしれないけど、お風呂場までついて来られちゃその先がやや不安で不安で。
自力で行くと申し出たものの、地図でも書いてもらうんだった。迷っちまったよ。
風呂場は一体何処だよ。
トイレはなんとなくマークが付いてるから分かるけど、風呂にはマークが付いてないみたい。
くそう、温泉マークくらい付けてくれたっていいじゃんか。客人に優しくない洋館だな。
ポリポリと頬を掻いて、取り敢えず俺は来た道を戻ろうとするんだけど、嗚呼、どっかどう行けば先輩のお部屋なんだろうか。
確か先輩の自室の前にはラベンダー畑の絵画あったよな。
目印に探そうとしても、それまでの道のりがなぁ。
どーしよう。湿った服を早く脱ぎたいんだけど。
「あ、そうだ。俺、鞄ごと移動しているんだから、確か携帯が中に」
「あら? そこにいらっしゃるのは空さま?」
声を掛けられて、俺は動きを止める。
向こう側から歩んでくるのは、次女の真衣さん持ち前の緑の黒髪がとても綺麗だった。
日本人ならではの髪だよな。
艶やかな長髪を揺らして、俺の前に立ってくる。