前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「鈴理さんはご一緒じゃないの?」
問い掛けに、
「えーっと俺はお風呂を借りようと」
でも道に迷っちゃって、と事情を説明。
クスリと笑声を漏らす真衣さんは、案内してあげるとスカートを翻して歩き始めた。
「ありがとうございます。助かりました」
俺は有り難く彼女の後について行く。
「先ほどはごめんなさいね」
突然切り出された話題に俺は、「え?」と首を傾げる。
数秒後、詫びの内容がご両親の発言だということに行き着いて俺は微苦笑を零した。
若干気にしているけど(嘘。わりかし気にしているけど)、真衣さんや先輩が悪いわけじゃないんだしな。
一応、鈴理先輩には許婚さんもいるしな。
お遊びに見られてもしょうがないんだろうけど、でも先輩は一生懸命俺のことを話していたみたいでもあるし。うーん。複雑だな。
「鈴理さんね、貴方のことを一生懸命話していたのよ」
真衣さんは俺に向かって悪戯っぽく笑う。
「私達姉妹が驚くほど、饒舌に話すものだから……よっぽど好意を寄せているのでしょうね。と、微笑ましく思っていたの。鈴理さん、自分から話すことなんて滅多にないものだから」
「正直俺が恋人で、不快に思いませんでした? あ、変な意味で聞いているんじゃないっすよ。ただ先輩には許婚さんがいるんで、客観的に見てどうなのかと」
ちょっとだけ瞠目する真衣さんだったけど、正直に答えてくれた。「いいえ」と。
率直に物申してくれる真衣さんは、驚きはしたけれど不快には思わなかったし、心配にも思わなかったと話してくれた。
何故なら、俺の話をする先輩がとても必死で楽しそうだったから。
両親がどう思ったかは分からないけれど、自分達姉妹は凄く微笑ましい気分で静聴していたと言う。
「それに許婚の話なら、四姉妹各々に一応取り付けられているから、仮に別の恋人を作っても何も思う点はないの。咲子お姉さまも同じように恋人を作っていたし。それに大雅さまと鈴理さんの関係を見ていると、あの二人じゃ絶対に上手くいかないとも分かっているから。対して貴方様には本当に心を開いているのね。鈴理さん、よく笑っているわ」
「先輩、ご家族とも仲良くしたいと思いますよ。ただ、そのー」
「分かっているわ。家族評価を気にしているのよね、鈴理さん。だから全然、私達に歩み寄ろうとしなくなって。特に私には」