前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
真衣さんは哀しげに笑みを零した。
そういえば真衣さんは、竹之内財閥の期待の星だったな。姉妹の中で一番期待されている。
だから先輩は……そうか、先輩、彼女に歩み寄ると自分の疎外感を痛烈に感じるんだ。
仲良くしたいけど、彼女に近付けば間接的に傷付くって分かっているから。
「昔はね、あの子と一番仲が良かったのよ」
真衣さんは憂い帯びたまま語り部に立つ。
「嗜好も行動も正反対だったあの子と、本当に仲が良かったの。反対だったからこそ、お互いに補う点が多かったのかも。毎日一緒に遊んでいたのに、月日は残酷ね。いつの間にか私達の間に隔たりが生まれてしまっていたわ。あの子から姉妹の私達と距離を置くようになって、咲子お姉さまに何度相談したことか。昔に戻りたいわ」
こんなことなら期待されない方が良かったかもしれない。
小さな呟きは独白に近かった。
聞いてはいけない独白だったかもしれないけど、俺の耳にはしっかり届いてしまう。
人の家庭だから安易な事は言えないけど、これだけは言える。
「先輩は臆病になっているだけで、きっと真衣さんと同じ気持ちだと思います。昔みたいに、無邪気に仲良く出来る時代に戻りたいと思っている筈ですよ。
でも、昔には戻れない。残念な事に……だから、これからもう一回作ればいいんだと思います。仲良くできる時代を」
「作る?」
「俺も経験あるんっすよ。家族のことで、そういう経験が。今は仲が良いっすけど、当初は俺がとても我が儘で」
あの頃、俺がまだ実親を亡くしてそう月日が経っていない頃。
俺は俺を引き取ってくれた今の父さん、母さんを両親として受け入れるまで相当時間を要した。
だって信じられなかったんだ。実親が死んでしまったなんて。
毎日、玄関前で実親が迎えに来てくれるのを待った。
時に近所まで赴いて、一生懸命実親の姿を探した。
いつかは来てくれると信じていたんだ。
大好きな父さん、母さんが迎えに来てくれることを。
晴れの日、曇りの日、雨の日、毎日のように実親を待っていた。
遊びにも行かず、大半を玄関先で過ごしていた俺を見かねた父さん、母さんが声を掛けてくることもあったけど、聴く耳を持たず俺は座り込んで待っていた。