前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「大丈夫」繰り返し、言葉を掛ける。
先輩は独りじゃない、それに先輩が思っているほど独りでもない。周囲が独りにさせてくれない。俺もそのひとりだ。
軽く撫でたまま教えてやる。
俺が迷子になった時、偶然居合わせた真衣さんとの会話を。
彼女は先輩とまた仲良くしたいと願っている。
誰よりも一番仲の良かった先輩と、また隔たりも溝もなく仲良くしたいと思っている。
先輩と正反対な立場の彼女は期待されたくないと苦言していた。
期待ゆえにいつの間にか生まれてしまった隔たりに苦悩している。
姉といつの間にそんな会話を交わしたのだ、と眠気を含みつつ瞠目する彼女。
それを無視して、俺は言葉を重ねた。
「先輩や真衣さんと同じように、他のご姉妹も寂しいと思っています。俺が貴方の家庭のことをどうこう言える立場じゃないっすけど、先輩は先輩が思っているほどご家族に過小評価されていません。特にご姉妹には」
だって先輩が一生懸命に話していた彼氏の話を、姉妹達はちゃんと聞いてくれていた。
俺が向こうの御両親にボーイフレンドと言われた時も、すかさず口を挟んでくれた。
姉妹は先輩が思っている以上に、先輩のことを心配している。
「ゆっくりでいいと思います。少しだけご姉妹に歩んで、先輩の悩みを打ち明けてもいいと思いますよ。それとも先輩はご姉妹のこと、嫌いっすか?」
そんなわけない。
先輩は姉妹に対して、劣等感を抱きたくないと怖くなっているだけだ。
けれど、他の姉妹だってきっと同じような思いを抱いている筈だ。
姉妹に期待されているうんぬんかんぬんで不安を抱いている鈴理先輩のように、姉妹もまた距離を置かれたことに不安を抱いて居心地が悪くなっている。
「四姉妹は皆が皆、仲が良かったんでしょう? 尚更居心地が悪いと感じている筈ですよ。期待されていないと思っている先輩も、期待されている真衣さんも、その他のご姉妹もきっと。
いっそのこと皆で腹を割って、家庭内情について話したらいいんじゃないかと思います。
明日あさってやれ、なんて野暮なことは言いません。先輩の心が決まった時にでも、ポロッと本音を口にしてみたらいいと思います。三人とも喜んで相談に乗ると思います。勇気がいるかもしれませんけど、でも、先輩ならできるっす」
また姉妹と仲良くしたいと思う気持ちがあるなら、きっとできる。