前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「ダイジョーブ、今からだって遅くない。だって先輩、ご姉妹はそこに健在しているんですから。ね?」
子供のように言い聞かせて、ひたすら頭を撫でてやる。
静聴していた先輩は「今はまだ」、口ごもってギュッと俺を抱擁。
ふふっ、そうっすね。簡単にはできないっすよね。
偉そうなことを言うだけなら俺だってできますもん。
高所恐怖症を克服します! なんて、口だけなら何度でも言えますもんね。勇気がいりますよね。
だから、その勇気が持てるまで俺は先輩の支えになりたい。
勇気が持てるその日まで、ずっと。持った以降もずっと。
俺は俺の意思で先輩と体を密接にする。
そしたらもっと近くに来いとばかりに先輩が抱き込んできた。
ありゃりゃ、本来俺がしなければいけないであろう、その役を先輩が取っちゃうんだからもう。
苦笑を零す俺に、「眠い」先輩は限界を訴えて瞼を下ろした。
その際、彼女は言ってくる。
目覚めたらベッドからいない、なんてことになっていたら許さない、と。
先輩曰く、ひとりでベッドに寝る行為はあまり得意じゃないらしい。
昔からひとりで寝ることを強要されていたらしいんだけど、夜が来る度に人肌が恋しくて恋しくて。
お母さんやお松さんに絵本等々で寝かしつけてもらっていたそうだ。
けど、目が開けたら誰もいないことが多かった。それが寂しいらしい。
「大丈夫ですよ」
俺は此処にいる。ずっと此処にいる。
第一、この状況でどーやって俺がベッドから抜け出しているんだろうな。
こんなにもガッチリホールドされているのに。
「おやすみなさい、鈴理先輩」
小さな欠伸を零し、俺も瞼を下ろすことにした。
今日はいろーんなことが色々あり過ぎて目が回ったけど、でも、楽しかったな。
なによりも先輩の心に触れられた。それは俺にとって大きな歩みだ。
度々セックスクライシスが訪れたけど、どうにか乗り切った。
本当に今日は楽しかった。
そして先輩の知らない一面を知れた。
なんだかもっと先輩を知りたくなったな。俺って貪欲だ。
遠退く意識の中、俺は今日一日のことをちょいとだけ振り返ってみた。
振り返っても振り返っても今日という一日が先輩一色に染まっている。
それが凄く照れくさいけど、とても嬉しかった。