前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
こんなものポーイだという手つきで寝巻きと肌着を脱がせちまう先輩はマジモードだった。本気と書いてマジだった。
朝から顔面蒼白、じゃね顔面紅潮(?)するなんて思わなかった俺は上半裸になった羞恥やら危機やらで大パニック。
なんでどうしてこんなことにっ、嗚呼、甘く見ていた攻め女!
「うわっ。そこに痕付けないで下さい。見えるっす!」
「見えていいではないか。あたしのモノって証だ。嬉しいだろ?」
「か、簡単に痕って消えないんですからね、キスマーク! 俺、月曜は体育があってですねっ。は、恥ずかしい思いを……ま、また付けたっすね!」
大した抵抗もできなく、寧ろちゅっと鎖骨やら首筋やら沢山吸われてもう駄目だうわぁあ俺の昨日の努力がぁああ! と、嘆いていた矢先。
「お嬢様いつまでおやすみなのです?」
コンコンッと扉をノックする音。
寝室には鍵が掛かっているんだけど、ノックした相手は合鍵を持っているらしく、ガチャっと鍵を解除して糸も容易く中に入って来た。
「おはようございます、鈴理お嬢様。空さま。お食事のした……くッ」
ピッシャーンゴロゴロ。
雷に打たれる、この擬音語がお似合いであろうその人物は見事に硬直。
ががーんっとショックのあまりにその場で佇み、俺等を凝視していた。
見る見る不機嫌になるのは鈴理先輩。
見る見る羞恥で顔が赤くなるのは俺。
見る見る青褪めるのは竹光さん。
この三つ巴の図といったら、天国と地獄、いや地獄一色だ。
「食事は後で取る」
今はお取り込み中だと先輩が手でシッシと竹光さんを追い出そうと試みる。
はいそうですか、と頷いて引き下がる、竹光さんじゃない。
血相を変えて悲鳴を上げた。
「おじょぉおおさま! な、なんってことをっ、まさかっ、そんなっ、あれほど言ったにも拘らず空さまと、空さまと」
「安心しろ。今、第二ラウンドに入ったばかりだ」
「ご、誤解を招くっすその台詞! 第一も第二もないっすから! た、竹光さんっ、俺達は何もまだ過ちなんて……あああ竹光さん!」
ぐらっとその場で両膝をついてしまう竹光さんはオイオイ泣き出した。
「この竹光がいながら、十代後半でなんという過ちをっ、ああ竹光、一生の不覚でございます」
とかなんとか、竹之内家に仕え始めてからこれまでのことを走馬灯のように思い出してオイオイシクシクグズグズ。
すっげぇ罪悪感を感じたんだけど、俺はまだ過ちはしていない!
セーフ、セーフだよ。
恋愛ABC法則によると、俺達はまだAの段階です! いやBかな……ちっげぇ! 俺達はまだA段階! セーフっすっ、竹光さん!
「鈴理お嬢様。もはやこの事態。空さまを婿養子にするしか責を取る方法がございませんぞ」
「それは喜ばしいことだな!」
なんでそーなるんっすか、あーあ、もう誰も俺の話を聞いちゃくれねぇ。
ガックシ肩を落とす俺はベッドに沈んでもう一寝入りしたくなった。
だって体の節々が痛いんだよ、筋肉痛なんだよ、腕も重いんだよ。
「体がだるいっす」
俺のヒトコトによって勘違いを起こした竹光さんの涙は増量し、先輩は「これからもっとだるくなるぞ」と、余計な助言をして下さったのだった。まる。
閑話休題。
こんな大騒動はあったけど(どうにか俺等は健全な関係を保ったままだと信じてくれた竹光さんは再三再四俺等に、というか先輩に健全な関係でいるよう注意を促していた)、俺は朝食兼昼食を先輩と一緒に取り、夕方まで先輩と勉強会、そしてDVD鑑賞で時間を楽しんだ。
余談として何度かメイド服を着させられそうになったことを付け加えておく。
日が沈み始めた頃、俺は先輩の家を後にした。
夜から英会話だという先輩に途中まで送ってもらうことになったわけだけど、日が沈み始めるに連れて、なんだか先輩の元気がなくなっちゃって。