前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「おっ?!」
ガッチリ後頭部に手を回して、衝突するようなキスを送ってきてくれた。
真っ赤に赤面する俺はかんなり動揺。
勢い余って天井に頭をぶつけた。
アイデデッ、頭部を擦りながら大抗議。
「なっ、何するんっすか、せ、先輩! 田中さんそこにいるっすよ!」
「誰がいたっていいではないか。公開ちゅーなど、学校では日常茶飯事だしな」
そういう問題でもない。
田中さん、無言で微笑を作っているし。
「あーもうっ!」
俺は真っ赤っかになってまた明日お会いしましょうと逃げるように、車の扉を閉めた。
愉快犯は窓を開けてまたな、と、したり顔。
畜生、俺の反応を楽しんでくれちゃってからに、ドドドドド意地悪だ。
夕陽もびっくりな赤面で、
「今日待ってますから」
テレビ電話の件を伝える。
「待ってろ」
先輩はニヤリと笑って田中さんに出すよう指示。
車から離れて、俺は見送りに立つ。
「ったくもう……人目も気にせず……めちゃくちゃにしてくれるんだから」
ブツクサと文句垂れていたら、車が停車した。
なんで停車するんだろう? 何かあったのかな?
首を傾げていたら、「大馬鹿者め!」下車してきた先輩から盛大に怒られた。
え、なんでいきなり怒られ……瞠目していると先輩がなにやら手を翳してきた。
あれは俺の携帯?
……やっべぇ、携帯の講義を受け終わった後、窓際のポケットに置きっぱなしだったけ。
「これではあんたに連絡できないではないか! まったく、あたしに届けさせようとするシチュエーションか? それとも別れのキスを強請ってきているのか?」
ずんずん歩んでくる先輩に、「うっかりっす」片手を出してとお詫び申し上げた。
本当にうっかりミスで忘れただけです先輩。
貴方様が思い描く妄想乙女シチュエーションではないので宜しくです。
俺の前に立ってくる先輩は、右手首を掴んで裏を返し、
「携帯は常に持っておけ」
手の平にそれを押し付けてくる。
「すんません」
苦笑を零す俺は、携帯を受け取ってポリポリと頬を掻いた。