前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


ケッタイなやり取り提案はあったけど実際は何事もなく、俺達は昼休み終了のチャイムと共に各々教室に向かった。


鈴理先輩と途中で別れた後、大雅先輩と階段を上っていく。

平然と階段を上る俺を横目で見る大雅先輩は「上りは本当に平気なんだな」と話題を切り出してきた。


こっくり頷いて、俺は踊り場で足を止める。


「上りは全然平気なんっす。怖いなんて微塵も思いません。ただ……」


そっと振り返って俺は急斜面を怖々見下ろす。

なんでもない急斜面の下を見るだけでぐらっと視界が揺れた。

二重三重にぶれる視界と多大な恐怖に、俺は思わずよろめく。


なんだ、なんなんだ、この恐怖感。


下を見るだけで鼓動が変に高鳴る。

眩暈、それに耳鳴り。


口内がカラカラに渇き切っていく。


「おっと」


後ろに倒れそうになった俺を受け止めてくれた大雅先輩は、本当に重症だなと微苦笑を零した。

ハッと我に返った俺は、「すんません」上体を戻して頭を下げる。


気にする素振りも見せない大雅先輩は、取り敢えず階段を上ってしまおうと肩に手を置いてきた。

小さく頷いて俺は彼と共に階段を上りきる。

さっきの恐怖感がまだしこりとして心中に留まっていたけど、気のせいだと思い込んだ。

そう思い込まないとなんだか、スッゲェ悔しいんだ。ほんとうに悔しい。


階段を上りきった後、大雅先輩は素朴な質問を向けてくる。


「テメェの高所恐怖症ってさ。ナニからきてるんだ?」


躊躇したけど俺は大雅先輩に打ち明けることにした。

幼少の時、ジャングルジムから落ちて頭に大怪我を負ったことがトラウマになっているからなんじゃないか、と。

トラウマが恐怖症を引き起こしているには違いない。それは断言できる。


だけど打ち明けた内容に大雅先輩は釈然としない態度で質問を重ねた。


「んじゃ、テメェ、高所恐怖症が酷くなる前に頭でも打ったのか?」

「いえ、そんなことないっすけど。あ、竹光さんに投げ飛ばされたような。んー、だけどこれが原因とは思えないんっすよね」


まったくもって自分自身のことなのに謎い。

何が原因で症状が悪化してしまったのだろう。

うんぬん悩んでいると、


「案外答えは近くにあるんじゃないか」


と大雅先輩。

彼を流し目にすれば、可能性として言っているだけだと肩を竦める。

< 317 / 446 >

この作品をシェア

pagetop