前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「まあ、こればっかは本人が乗り切るしかねぇからな。俺がどうこう言っても……なあ?」
「そうっすね」
苦笑する俺に大雅先輩はまたクエッション。高所恐怖症を治したいと思ったことはあるか?
豊福アンサーは当然イエス。
だってこれが治れば、普通に窓際の席だって陣取れるし、景色だって悠々見られるし、それに遊ぶ幅だって広がると思うんだ。
田中さんから聞いた話、先輩は遊園地が好きらしい。
観覧車が特に好きだとか。
だけど俺がこんなへなちょこなばっかりに、遊園地に行きたいとかそういうお声はヒトコトも聞いたことがない。
寧ろ好きだって事も知らなかった。
遊園地に乗れる乗り物が少ないもんな俺。
「お前さ、ほんっと鈴理が好きなんだな」
不意打ちに、俺は目を丸くした。
「声に出てる」
指摘されて俺は今考えていた事が大雅先輩に筒抜けだったことを理解。
慌てて口を閉ざしてみるけど、時既に遅し。
大雅先輩は「あいつはマジで観覧車が好きだぜ」と苦笑い。
付き合われて何度も乗ったことがあると教えてくれた。
ちょいそれに嫉妬する俺がいたけど、態度には出さなかった。
嫉妬したところで俺が先輩にしてやれることなんて何も無い。一緒に観覧車に乗れるわけでもない。
「そんなに好きなんっすか? 鈴理先輩」
「ジェットコースターよりも好きだぞ。なんでも、観覧車のてっぺんで見た景色が絶景なんだと。俺には街がちっちゃく見えるだけなんだけど、あいつは乗る度に感動してたよ」
……高所恐怖症じゃなかったら、先輩を喜ばすことができたのかな。
口をへの字に曲げて思案にふける。
そしたら大雅先輩がまた一笑して、「どんだけ鈴理が好きなんだよ」と肘で小突かれた。
どんだけ好きかってそりゃあ、恋人なんだし……いやでもお互いを知るために付き合い始めたわけだけど、気に掛ける人ではあるよ。
好きか嫌いかって聞かれたら、そりゃあ好きだ。
でも先輩と同じ気持ちに達しているかどうか。
俺の言葉に大雅先輩は意味深に鼻を鳴らし、「実は俺さ」重く口を開く。
「鈴理とキスしたことがある。俺もあいつも、お互いに好奇心でファーストキスを捧げたんだ。」
「へっ、え、う……嘘っすよ! だって先輩っ、俺が最初って」