前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
だけどそう簡単に諦めるものか!
男、豊福空、一度決めたことは貫き通す意気込みです。
なーんてカッコを付けてみた俺は、これから一週間、あらゆる方向性で高所恐怖症を克服しようと躍起になった。
結果から申し上げると惨敗してしまっているので、細かい詳細は記載しないけれど、とにかく俺なりに頑張ってはみたんだ。
これ以上に無いってくらい高いところに挑んだよ、挑みまくったよ。
打倒塾生だと思った若かりし中学時代並みに、打倒高所恐怖症でがむばったんだ。
でもやっぱり駄目だった。
撃沈。
玉砕。
敗北。
なーむ、ちーん。
救いといえば俺の惨敗劇を誰も知らないってことだな。
フライト兄弟には一日ぽっきりで協力してもらうのをやめた。
鈴理先輩には、死んでもこんなダッサイ姿は見せられない。
大雅先輩に協力を要請したら最後、末代まで「俺が協力したんだから節」で延々恩を売りつけられそうだし。
なにより、これは自分の問題なんだから自分で打破しないと駄目なんだって思ったんだ。
けど、まあ、惨敗し続けたらちょい決心も揺らぐわけで。それなりに落ち込むわけで。
なんで俺ってこんなにダメダメなんだろうって一日へこみました。
一週間と一日後の話です。
ヘビメタ級にネガティブになりましたとも。貧乏人だって人間だもの、俺だって落ち込みます。
ははっ、だけど一日で立ち直ったんだよな。
っていうのも、どーんとその日一日落ち込んでいたら、鈴理先輩が。
「空、元気ないな。愛情不足か? よし、あたしが注いでやる。喜んで受け取れ!」
「へ? あの、せんぱっ、んーっ! んーっ!」
暗 転 。
危うく食われそうになった事実は蛇足にしておいて、濃厚でディープなちゅーを頂きました。
唇が腫れるくらいちゅーしましたとも。
何度か息継ぎできず、マジで失神するかと思いましたとも。
相変わらず先輩のテクニカルな舌使いに悲鳴を上げたくなりましたとも。
で、ほら、俺も完全に彼女を好きって意識し始めちゃってるから、一々々々々彼女を喜ばせる反応をしちゃいまして(大袈裟に反応しちゃったんだよ、お馬鹿な俺は!)。
先輩が目をキッラキラさせて攻め心を剥き出しにして下さった。
そりゃもう、どえりゃあ一日だった。
いつもの三倍濃厚でヤーんな一日を送る羽目になったよ。
久々に全力疾走で先輩から逃げたくらい、濃厚でハードな一日だった。
回想が必要か?
いや、俺の名誉のためにそっとしておいて欲しい。
いつもの攻められ日常が三倍増しになったと思ってくれれば十分だ。
しかしどーしょうもない男、豊福空は意外と先輩のキスで立ち直ったという……。
俺も現金な性格だと思ったよ呆れたよ呆れ返ったよ。
でも、う、嬉しかったんだよ。
先輩のこと完全に好きって自覚しちゃった分、なんか心躍っちゃったんだよ!
なに、この乙男(オツオトコ)っていうツッコミはなしで。
とにもかくにも、こんな経緯があったもんだから、俺はいきなり克服はやっぱ無理か、と克服する道を諦めて、当初予定していた原因の追究に目を向けた。
俺の高所恐怖症が酷くなった要因はなにか。
これまた三日を費やして悶々考えてみたんだけど原因不明のまま。
答えは出なかった。
簡単に出てくれたら苦労しないんだけど、こうも答えの糸口が見えないと探し甲斐もない。
ほんとにもうヤになってきたなぁ、と思った四日目の昼。
突然転機は訪れた。