前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「まてよ」
首を傾げて写真を見比べる。
父さん母さんが交通事故に遭った。
それも一応、俺のトラウマではあるよな。
高所恐怖症に直接関係ないとしても、トラウマ繋がりなことには違いない。
両親を失った悲しみは底知れぬものだったんだから。
そういえばあの日、先輩とのお泊り会での帰り際、俺は脇見運転していた車と衝突しそうになった。
先輩が助けてくれたから、事なきことを得たけど……もしかして俺のトラウマってあの事故もどきが契機なんじゃ。
そうすると、俺が高所恐怖症が酷くなった日程的にも辻褄も合う。
事故に遭いそうになったから、俺の高所恐怖症が酷く――?
いや、まだ、まだ何か足りない。
それだけじゃ説明不足だ。
第一交通事故で両親を失ったとはいえ、俺はその場にいなかったんだぞ。
同じ目に遭いそうになった、それだけで高所恐怖症が酷くなるだろうか?
こじ付けとして先輩が轢かれそうにもなったって理由も挙げられるけど、それだけ、それだけで?
もっと別の理由があるんじゃないか?
あれ、おかしいぞ。
考えれば考えるほど辻褄が合わなくなる。
俺の高所に対する恐怖心はジャングルジムから落ちた大怪我であって、両親の交通事故とは無縁な筈。
トラウマ繋がりで恐怖心を煽いでいるとしても、高所に対する恐怖心の説明にはならない。
今の説明でいくなら、俺は、どちらかといえば車に恐怖心を抱いて、車に近寄れなくなる筈なんじゃ。
もしかして高所恐怖症と交通事故、俺が覚えていないだけで何か関係があるんじゃ。
そしたら高所恐怖症が酷くなった説明もつく。
どっくんどっくん、脈が耳元に纏わりつき始めた。
思えば両親が交通事故に遭った時の、その疑問は一杯あった。
例えば、事故にあったその時俺は何処にいたのか、とか。
なんで両親は事故に遭ったのか、とか。
ジャングルジムに落ちた事故と交通事故の日は一緒だったのか、とか。
今の両親曰く不慮の事故で車と衝突してしまったらしいんだけど、でも、はっきりとは教えてもらったことはないよな。
俺も辛いから教えてもらおうとしなかったんだけど、振り返ってみれば、父さん母さんが事故の話についてうやむやにしたことも多々あった。
父さん母さん、もしかして何か重大な事を俺に隠している?