前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



俺はそっと後頭部に触れる。

確かジャングルジムに落ちた時、俺は後頭部を切ったんだよな。

んで血をダラダラ流して、救急車に運ばれて意識不明の重体になったとか。


どこの公園で俺、落ちたんだっけ。


「………」



椅子を引き、俺は箪笥へと向かった。


重要書類や手紙が押し込まれている引き出すを箱ごと取り出すと、束ねられている封筒を一枚一枚確認していく。


「母さん、物をあんまり捨てない人だからきっと、どっかに。どっかに。あった」


古紙の臭いを醸し出している茶封筒を見つけ、俺はそれを手に取った。

裏を返してみると『豊福 由梨絵』と書かれた差出人名。


住所と肩を並べて名が記載されている。


これは実親の母さんの名前だ。

今の母さんの本名は豊福 久仁子だしな。


実親の母さんと文通していたって母さん言っていたから、手紙が残っているんじゃないかと思ったんだけど、やっぱりあったな。


俺はおもむろに便箋を取り出して中身を拝見。

あんま人の手紙を読むって良くないけど、どうしても気になる事があったんだ。


前略から始まっている文面はつらつらと日常から、夫の愚痴から、趣味のことからびっしり書かれている。


わぁお、由梨絵母さんって料理が得意じゃなかったんだな。

度々手料理のことで父さんと喧嘩していたらしい。新事実発見ってカンジ。


んでもって日常生活話に俺の名前が載っていた。


当時の俺は二歳。

駄目だ、この手紙じゃない。


手紙を折り畳んで、次の手紙に目を通す。

実親と俺が暮らしていた頃、何度か引越しを繰り返していたらしいんだ。


所謂、転勤族。

仕事の関係で転々と引越しを繰り返していたらしい。


だから由梨絵母さんは母さんと文通をしていたんだろう。

引越しの繰り返しって結構ストレスらしいから、文通で気を紛らわしたかったに違いない。


俺は親が亡くなる寸前の自分の家の住所が知りたかった。


束になっている手紙に一枚いちまい目を通して、俺はどっかに五歳当時の俺の名前がないかどうか目に通した。


けど、なんっつーのかな。

故人になった由梨絵母さんの手紙を読むの、精神的に辛かった。


俺の名前バッカ出して、息子がはしかにかかった。どうしようだの、可愛いだの、掴み立ちできただの、つらつら書いてくれてるもんだから。愛されてたんだなってしんみり思う。ほんとに。


< 324 / 446 >

この作品をシェア

pagetop