前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
俺はそっと後頭部に触れる。
確かジャングルジムに落ちた時、俺は後頭部を切ったんだよな。
んで血をダラダラ流して、救急車に運ばれて意識不明の重体になったとか。
どこの公園で俺、落ちたんだっけ。
「………」
椅子を引き、俺は箪笥へと向かった。
重要書類や手紙が押し込まれている引き出すを箱ごと取り出すと、束ねられている封筒を一枚一枚確認していく。
「母さん、物をあんまり捨てない人だからきっと、どっかに。どっかに。あった」
古紙の臭いを醸し出している茶封筒を見つけ、俺はそれを手に取った。
裏を返してみると『豊福 由梨絵』と書かれた差出人名。
住所と肩を並べて名が記載されている。
これは実親の母さんの名前だ。
今の母さんの本名は豊福 久仁子だしな。
実親の母さんと文通していたって母さん言っていたから、手紙が残っているんじゃないかと思ったんだけど、やっぱりあったな。
俺はおもむろに便箋を取り出して中身を拝見。
あんま人の手紙を読むって良くないけど、どうしても気になる事があったんだ。
前略から始まっている文面はつらつらと日常から、夫の愚痴から、趣味のことからびっしり書かれている。
わぁお、由梨絵母さんって料理が得意じゃなかったんだな。
度々手料理のことで父さんと喧嘩していたらしい。新事実発見ってカンジ。
んでもって日常生活話に俺の名前が載っていた。
当時の俺は二歳。
駄目だ、この手紙じゃない。
手紙を折り畳んで、次の手紙に目を通す。
実親と俺が暮らしていた頃、何度か引越しを繰り返していたらしいんだ。
所謂、転勤族。
仕事の関係で転々と引越しを繰り返していたらしい。
だから由梨絵母さんは母さんと文通をしていたんだろう。
引越しの繰り返しって結構ストレスらしいから、文通で気を紛らわしたかったに違いない。
俺は親が亡くなる寸前の自分の家の住所が知りたかった。
束になっている手紙に一枚いちまい目を通して、俺はどっかに五歳当時の俺の名前がないかどうか目に通した。
けど、なんっつーのかな。
故人になった由梨絵母さんの手紙を読むの、精神的に辛かった。
俺の名前バッカ出して、息子がはしかにかかった。どうしようだの、可愛いだの、掴み立ちできただの、つらつら書いてくれてるもんだから。愛されてたんだなってしんみり思う。ほんとに。