前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「まあ、由梨絵母さん。息子の愚痴も散々書いてくれているけど。育児ってのは大変なんだろうな。あ、」
俺は何枚目かの手紙に目を通す。
そこには俺の五歳の誕生日の話題と、引越し完了の文字。
それから今度近場に引っ越して来たんで一緒お食事でもどうですか? とお誘いが綴られている。
これだ。
この手紙に書いてある住所を辿れば、きっと。
その手紙だけを残して片付けを済ませた俺は早速、腹ごしらえを済ませて外出した。
思い立ったが吉日。
とにもかくにも俺が昔住んでいた地元に行ってみたい。行ってみたくなったんだ。そこに行けば、きっと何か分かる気がして。
幸いにもご近所みたいだし、チャリでいけない距離じゃないけど、うーん、此処は食い下がってバスで行こう。先輩と初デートした時の金が残っているし。
すっげぇ勿体無いけど、勿体無いんだけどっ、でもなるべく早く行って早く戻って来たい。
母さん達には知られたくない。
もしも、知られてしまった時が気まずいしな。
住所を辿るために、俺は停留場に向かう。
制服のままだったけどまあいいだろう。
私服よりかはマシな姿だし、着替えるのが面倒だ。
停留場で料金を調べて(片道280円? 詐欺だろ!)、目的地に向かうバスに乗り込んで揺られること20分。
俺は見慣れない土地に足を踏み込んだ。
そこは比較的住宅街になっているんだけど、わりと商店街とかも目に付く。
中途半端に活気付いた街ってのが第一印象だ。
さてと、この住所によると、んー、二丁目地区実親は住んでいたみたいだな。
えーっと案内板は何処だ。
案内板に地図が載っている筈……あ、あったあった。
俺は酒屋前の案内板に駆け寄ると、黄ばんだ地図を頼りに住所を調べる。
この時、機械音痴の俺は携帯で地図を出すって知識が無かった。しょーがない、アナログ人間なんだから。
案内板を頼りに俺は記憶にない土地を歩き出す。
此処に昔住んでいたいんだよ、と言われても、全然憶えの無い場所だ。
かれこれ十年も前の話だし、仮に俺が街並みを憶えていたとしても、十年も経てばガラっと雰囲気も変わるだろう。