前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「引っ掛かったのは、あんたの高所恐怖症が酷くなった日からだ。あの時のあんたを見て、まさか……と思った。
きっと思い出す契機になったのは、あの日あの時あの瞬間、偶然にも車があたし等を轢きそうになった、あの出来事だ。
その日を境に高所恐怖症が酷くなったとあんたは言っていた。
あたし自身は記憶が疼いて、高所恐怖症が酷くなったのだろうと推測したんだ。
けれど、その時のあんたはまだ思い出してもなかったし、自覚もしていなかった。純粋になんで高所恐怖症が酷くなったのか、と首を捻っていたからな。
あんたが思い出したのはきっと、あたしに電話を掛けてきた日だ……あんたはなんで高所恐怖症になったのか、知ってしまったのだろう?
どうして知ったのか、あたしに知る由もないが、月曜からあんたの様子が一変してしまった。単に高所を怖じるだけじゃなくなったんだ。
見ているだけで分かってしまったよ。空は高所に怯えているんじゃないって。
ただあたしも確信が持てなかった。安易に聞けることではなかったから――由梨絵母さんと、寝言を聞くまでは」
頭が真っ白になった。
「すまないな、空。あんたのお母さまからあたしは既に事を聞いているんだ。なんであんたが高所恐怖症になってしまったのか、を」
先輩は俺が知る前から原因を知っていた?
しかも母さんがそれを教えた?
……いやでも、それがどうした。
先輩が知ったところで、それがどうしたんだ。
知ったところで何が変わるというわけでもない。
俺だってそう。
俺が知ったところで、それこそ思い出したところで何かが変わるというわけじゃない。
まさか死んだ両親が帰って来るとか?
そんなファンタスティックな話がありますか。
「そっか、先輩は知っていたんっすね。ははっ、参ったっすね。俺よりも先に知っちまっているなんて」
微苦笑を零して俺は頬を掻いた。