前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
『攻め女のあたしに目を付けられた時から、あんたの運命は決まっている。肉食は草食を食らう運命。あんたもあたしに食われる運命なのさ。
潔く諦めて存分にあたしの所有物(=恋人)ライフを満喫するがいいさ』
嗚呼。思い出しちまった、先輩の恐ろしい呪いの言葉。
もしも俺、先輩に食われちまったらどーなるんだろ。
何かが得られる代わりに、大きな代償が払われるような。元の生活には戻れないような。
身の危険を感じる。
二の腕を擦りながら百面相をしていると、「豊福」目の前に国語の教師が立った。
「何をブツクサブツクサと」
怒気を纏って青筋を立てている国語の教師に俺は愛想笑い。
どうやら俺は盛大な独り言を紡いでいたらしい。
クラスメートからはクスクスと笑われている。
授業に集中しろと注意し、俺の頭を軽く叩いた国語の教師は黒板に戻って行く。
俺は頭を擦りながら教師の遠ざかる背を見つめ、小さく溜息。
今日に限って、どうして先輩をこんなにも意識しちまうんだろう。
こんなこと、今まで無かったのに。
今まで先輩のアタックからずっと逃げることだけ考えていたから……かな。
机に肘を置いて俺は頬杖をつく。
開きっ放しの教科書に目を落としながら考えるのは鈴理先輩のことばっかり。
アタックに身の危険を感じる反面、先輩の本心が気掛かりで、気掛かりで。
本当に先輩は俺のことを、貧乏で平凡で取り得の無い俺を好きって思ってくれているのかな。
遊びじゃないことは分かった。
だって昼休みにあんな小っ恥ずかしいことを平然と言ってくれたのだから。
(……先輩が男前、じゃない、女前だから悩む俺が女々しく思えて仕方が無い!)
こんな自分嫌だ。俺も男だ、少しは男になりたい。
ついでに恋愛は普通の恋愛を経験したい。
(可愛い性格の女の子だったら、俺だって、俺だって一発でOKだったんだよ。顔は美人なのに、あの性格さえなければ)
身悶えて呻く俺の頭に黒板消しが飛んできたのはこの直後。
午後の授業は殆ど上の空で流れてしまった。