前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
暮れる夕陽の色がやけに目に沁みたけど、構うことなく歩道を走って走ってはしって、ようやく川原で足を止めることに成功。
キラキラと夕陽が川面に反射している、その光景を目にしながら、俺は呼吸を整える。そして馬鹿だと自分を罵った。
彼女は純粋に俺を心配してきてくれていただけなのに、なんであんな八つ当たりをしちまったんだろう。
好きだという気持ちは疑いもしなかったのに、その想いを同情だとを思っちまった。俺が保守的になろうとしたせいで。
見損なった?
それこそ俺に向けられるべき台詞だ。
保健室でずっと傍にいてくれた彼女に酷いことを言っちまったんだから。
激しい自己嫌悪に陥った。
好きな気持ちを彼女に伝えようと決心したばかりなのに、自分からチャンスを揉み消すなんて。
本当にバカヤロウだ、俺は。
「あ。靴、履き替えてねぇや」
上履きのままだってことに気付いて、俺は自嘲を零した。
ほんっと何やっているんだろう。
今日は特に皆に迷惑掛けてばかりだ。
大雅先輩から始まって、宇津木先輩や川島先輩。そして鈴理先輩。
迷惑ばっか掛けて、マジ何やっているんだろう。
明日、皆に謝らないと。鈴理先輩には土下座する勢いで謝らないと。
あんな八つ当たりしておいて、嫌われたくないとか思う我が儘な俺がいる。
どうしようもなく彼女が好きなんだと実感した瞬間だった。
さてと靴を履き替えに行こうか、学校に戻ろうか。
ぼんやりと上履きを見つめた後、「めんどうだな」視線を流して俺は川原に目を向けた。
川は俺の行為さえ赦すように、穏やかに流れている。
今は家に帰りたくない。
もしも母さんが帰っていたら、俺の雰囲気に気付いて声を掛けてきそう。
そしたらまた八つ当たりしちまいそうだ。まだ感情的になっている第二の俺もいる。
気を落ち着けて帰ろう。
俺は川原に下り、高架橋下に身を潜めることにした。
ふっといコンクリート柱に背中を預けて座り込み、鞄を隣に落として膝を抱える。
日陰を陣取ったせいか、俺の気持ちも日陰一色。どんより落ち込んで自己嫌悪に浸った。
何が一番嫌だったかって先輩に八つ当たりしたこと、そして暴言を吐いたことだ。
家族関連のこと感情的になってしまう短所があるのは知っていた。自覚もしていた。
そのせいで俺、中学の時、友達と絶交しちまった苦い思い出もある。