前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
だけど、なにも鈴理先輩にまで感情的になる必要なかったんじゃないか。
同情じゃないと知っていたのに、好意を疑っちまうなんて最低だ俺は。
母さんが鈴理先輩になんで俺の高所恐怖症を話したか、その経緯は知らないけど、きっと彼女を信用して話したんだろう。
母さん自身も家族の内情を他人に打ち明けるの好きじゃないから。
夕風から夜風に変わる。
あんなに夕陽で煌いていた川面も、今はネオンの光が反射するだけ。
綺麗というより着飾っているって表現がお似合いだ。
どれほどそこで時間を潰していたかは分からない。
そろそろ帰った方がいい。
夜風に当たって体が冷え切っちまった。
ふと俺は携帯を取り出して時間を確認する七時半か。
メールや着信は……来てるわけないか。あんな突っ返し方したんだから。
些少でも期待した浅かな自分に自嘲して、俺は携帯を鞄に仕舞う。
帰ろう。これ以上、時間を此処で過ごしても現状が変わるわけじゃないんだ。帰って明日の謝罪文をちゃんと考えよう。
俺は高架橋を離れ、そこら辺に落ちている石ころを手に取り、川に向かって投げる。
ポチャン、水音が虚しくその場に響いた。
なんとなく寂しい気持ちに駆られながら、生い茂っている草達の斜面をのぼる。
「嫌われたらお笑い種だよな。失恋、じゃないか」
微苦笑を零した次の瞬間、ザッザッザと草達を踏み散らす音が聞こえた。
足を止めて振り返る、同時に押し倒された。拍子に鞄が落ちる。
「デッ!」
幾ら土の上だとはいえ、そこらに石も散乱している。
よって、その上に倒れた俺の体に多大なダメージが襲いかかった。
特に右肩辺りがやばい。石の角が食い込んでいる。
誰だよ、いきなり俺にタックルしてきた馬鹿は。
「獲物を狩る鉄則その1、油断している隙を突け」
人を獲物呼ばわりする人物は、口角の端を持ち上げてみせる。
「ゲッ、な、なんで鈴理先輩がこんなところに」
ふふんと俺を見下ろしてくるハンターのこと鈴理先輩は、「ゲッとはなんだ」ニッタァとあくどい顔で笑ってきた。
「逃げたら追って捕らえる。攻め女の基本行動だろう? まったく骨を折ったぞ。あんた、逃げ足だけは一丁前だな。まあ、それを捕まえる楽しさはあるが」