前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―



「なんで? そりゃ決まっているだろ、あんたがあたしのモノだからさ」


先輩は意地悪だ。


「どんなにあんたが嘆こうが喚こうが離さない」

先輩は優しくない。


「あんたがどうしようが、あたしはやりたいようにやる。それだけだ」

先輩は、ひどい。


「空、ダイジョーブ、あたしとあんたしかいない。良かったな」

先輩はそうやっていつもっ、俺を掻き乱す。

 
彼女を見上げれば、向こうの夜空に星々が点々と散っている。

人の命が消えてしまった時、人は星になるというけれど本当だろうか。

科学的には星はガスの塊って言われているけどさ、星になったって方がロマンチックでいいよな。


俺も両親が綺麗な星になったって方が断然いい。いいんだ。


喉の奥が焼きつくような引き攣るような感覚に襲われる。


先輩の言うとおり、俺は限界だったのかもしれない。

思い出してしまった記憶を誰かにぶち撒けて、このショックを誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。

何より自責の念を聞いて欲しかったのかもしれない。


プッツリと糸が切れたように俺は抵抗を止めて、「約束っ」上擦った声で話を切り出す。


「父さん、母さんっ、約束したんっす。日曜に、公園で遊ぼうって。嬉しくってっ」

「……ああ」


「でも当日なかなかっ、公園に行かないから焦れて、俺はひとりで勝手に外に出てっ」


もしもあの時、ひとりじゃなくて皆で家を出ていれば、時間誤差で両親はトラックに跳ねられず済んだのに。


もっと俺が聞き分けよく、辛抱強く、母さん達を待っていればこんなことにはならなかったんだ。何が両親思い。何が親孝行。

俺は、おれは、大好きな両親の命を奪っちまった大馬鹿野郎だ。


それだけじゃない今の両親だって辛酸な思いをさせちまった。

息子同然に可愛がってくれるあの人達にも、辛い思いをさせてきたんだ。


俺が傍にいることで、何度その光景を思い出しただろう。


「父さん母さんを殺したのはあの時のトラックと、俺自身の身勝手な行動……」


天罰なのか、俺は目の前で両親を失った。大好きだった両親をいっぺんに失った。


「空、」

「俺はっ、馬鹿っすっ。こんなだいじな……だいじなっ」


嗚呼、父さん母さんになんて詫びればいいんだ。

嗚呼、今の父さん母さんになんて詫びればいいんだ。

なんで俺はこんな大事な事を忘れていたんだ。能天気に毎日を過ごしていたんだ。

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