前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「先輩……俺はっ、どーしょうもないっ、人殺しなんっすよ」
上体を起こされて、きつく抱き締められた。
ガクガクと震える体で俺は先輩の背中に手を回して、「会いたい」死んでしまった両親に会いたいと嘆いた。
会ってあの時のこと、ちゃんと詫びたい。
でも世界中探したって両親はいない。
どうやったら償えるのか、今の俺には見当もつかない。
だから俺は思い出してもなるべく、今までどおり振舞っていた。
今の両親は自責ばかりする息子を見たくないだろうし、向こうに逝っちまった両親だって繋いだ命を大事に今を生きろと言うだろうから。
でも、もう、無理だ。
自分の犯した罪が重く圧し掛かる。罪の重さに吐き気がしてくる。
いっそのこと消えてしまいたい。
先が真っ暗で、もう何も見えない。
死んでしまいたい、くらい、自分の罪が重い。
堰切ったように俺は感情を雫にした。
とめどなく雫を先輩の肩口に落とし、忙しなく肩を動かして声を殺す。
「死ねばよかったんだ。俺が死ねば……どうして俺だけっ、生き残ったんだろう。どうしてあの時っ、おれはひとりで」
先輩のブレザーに爪を立てる。感情がコントロールできない。
「すまない空。生きてくれてあたしは良かったと思っている。あたしは、あんたのことが好きだから」
分からない。
先輩の言っている言葉が分からない。今の俺には理解できない。
なにより、先輩が此処にいるのかどうかも分からない。それだけ俺は孤独だった。
「みえない、おれ、何ももう、見えないっす。もう……何も」
嗚咽が交じるけど、先輩は何も言わず背中を擦ってくれた。傍にいると態度で教えてくれた。
優しさが涙を誘う。
そうなったら最後、俺は感情を撒き散らした。
なんで俺だけ残されたのか、なんでトラックが両親を跳ねてしまったのか、なんで俺は今こうして生きているのか。何も分からない。理解もできない。
「もう、いい。辛かったな。空、辛かったな。いい、もういいんだ。あんたは我慢しなくていいんだ。誰も咎めやしない。全部あたしのだ。あんたの苦しみも悲しみも、全部あたしの」
「あんたはあたしのだ」いつも聞かせてくれるあたし様の傲慢な台詞が胸を突いた。
ぶわっと溢れる涙の量はとどまるところを知らない。
静聴してくれる先輩の優しさが嬉しくてうれしくて、俺はただただ吐き出した。
つっかえていたすべての感情を、我慢していたその感情を、血反吐が出るまで吐き続けた。
頭上はるか彼方に瞬いている星は、ただ静かに俺達を見下ろしている。