前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
04. 「違うっすっ、俺は先輩のことが!」
□ ■ □
「空、この部屋で大丈夫か。寝られそうか?」
その日の夜、俺は先輩に引き連れられて近場のホテルで一夜を過ごすことになった。
泣き顔を親に見られたくない、その俺の気持ちを察してくれたらしい。
ちょいと落ち着いた俺を見計らって、あたしに付き合えと強引に車に乗せてきたんだ。
まさかそのまま知らないホテルに連れて行かれるとは思わなかったけど、もしかしてラブホかと思って身構えもしたけど、ちゃんとした立派過ぎるホテルだったよ。安心したよ。ほんと。
竹之内財閥が所有しているホテルの一つだそうで、あー、お金は掛からないとかなんとか。
庶民の俺にはよく分からないけれど、取り敢えずお金は掛からないそうな(でもま、先輩は「またデートしろよ、これはツケだ」とか言ってくれたけど)。
俺が散々泣きじゃくっている間にお松さんが手配してくれたらしい。
先輩の家に連れて帰る案もあったらしいけど、やっぱり泣いた俺に対する配慮だったみたいで敢えてホテルを選んでくれた。
自宅にも適当な理由をつけて連絡してくれた。なんだか至れり尽くせりで申し訳ない。
申し訳ないといえばもう一つ。
泊まる部屋がスイートルームだってこと。
いやはや普通に泊まったらハウマッチ? 豪勢なホテルに初めて泊まるもんだから、貧乏性な俺にはすっげぇ居心地悪い気分。狭い部屋の方が性に合っているようだ。
「寝られそうか」
先輩の問いには小さく頷く。
枕が変わっても寝られる奴だから、きっと寝られるだろう。
寝られないとすれば俺の気持ちに原因がある。
スプリングの利いたふわふわベッドに腰掛けていた俺は、肩に掛けていた鞄を膝に置いて呆然としていた。
蓄積されていた感情を一気に表に出しちまったもんだから、凄く疲れちゃったんだ。
必死に蓋していた感情が表に出ると、こんなにも空虚感を味わうもんなんだな。変なの。
ふう、息をついて肩を落としていると、顔にコツンと冷たいものが押し当てられた。
のろのろ顔を上げれば、「水分補給」缶コーラを持った先輩が優しく綻んでくれる。
お嬢様でも炭酸ジュース飲むんだな、コーラを持つ先輩ってあんまり似合わないんだけど。