前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「どもっす」
小声でお礼を言って俺はそれを受け取った。
鞄をベッド下に置いてプルタブに指を引っ掛ける。
ぷしゅっと産声を上げる缶コーラを口元に運んで喉を潤した。
あ、美味しい。喉に沁みる。ついでに腸にも沁みる。
夕飯もまだだったもんな。今、一体何時なんだろう? 見当もつかない。
「先輩、あの、すみませんでした。暴言吐いて。そしてありがとうございます。なんか、俺、色々と無理してたみたいっす」
飲み物で一息したおかげで、俺はちょいと喋る元気が出る。
ごめんなさいとありがとうを素直に口にして、おずおず隣に腰掛ける相手の顔を見つめる。
「ん」簡単に言葉を流す先輩は暴言のことに、ちっとも気にした素振りを見せなかった。
ありがとうは素直に受け止めてくれて、無理していたことは確かになっと相槌を打ってくれる。気遣いの見える反応だった。
不意にクシャリと頭を撫でられた。
「少し強引だったな」
先輩もちょっと反省しているのか、俺に無理やり吐露させたことを詫びてきた。
首を横に振る。
ああでもしてくれないと、ぶっ倒れるまで自分の本当の気持ちを隠し通そうとしていた。
先輩の攻めのおかげで、何かと理由を付けて逃げちまう俺は自分の気持ちと向かい合うことができたんだ。
確かに強引だったけれど、今はとても感謝している。
だけど完全に張っていた虚勢が崩れちまった今、これからどうすればいいか分からない。
途方に暮れちまっている。
今しばらく立ち直れそうにないって感じ。
亡き両親のこともそうだし、今の両親のことだってどう向き合っていけばいいのか。自責の念は溢れる一方だ。
あの時、俺がひとりで勝手に外に出なきゃこんなことには。
大好きな両親と向かい合う勇気がこれっぽちもなくなっている。
もしも俺がすべてのことを思い出したといえば、彼等はどんな反応をするだろう?
哀れむだろうか、悲しむだろうか、それとも辛そうに笑うのだろうか。
想像しただけでなんか涙腺が疼く。
どんだけ俺はメソメソするんだ。
「有りの儘に、ご両親に言えばいいんじゃないだろうか?」
と、先輩が助言をしてくれる。
有りの儘に、が一番難しいと思うんだけど。