前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
微苦笑する俺に、
「あたしでさえ分かったんだ」
きっとご両親も察しはついている、彼女は頭をそっと抱き締めて耳元で囁いてくる。
そんなに分かりやすいんだろうか、俺って。疑問を解消してくれたのはこれまた先輩。
「ずっとあんたを見ているんだ、分かるさ」
おどけ口調で笑った。
「息子同然に、いや息子として可愛がって下さっているご両親なら尚更、察していると思うぞ。少しはご両親を困らせてみてはいいんじゃないか? 空はいつもご両親第一主義だから、自分の我が儘や気持ちを言わなさそうだ。
ご両親も案外、それに寂しい思いを抱いていたりしているかもしれん。対照的にあたしは自分の両親に我が儘ばかり言って困らせているが」
息子としてもう少し両親に甘えたっていいんじゃないか、空はいつもご両親優先だぞ。そう指摘されて俺は気付く。
そういえば俺は今の両親に、あんまり我が儘を言ったことない。
引き取られたからってのもあるけれど、物欲が出てもお金が無いと分かっていたから困らせるのは目に見えていたんだ。
今も何かとオネダリってのがあの人達にはできない。なんだか悪い気がして。
「それにしても、なんで空は思い出したんだろうな。お母様は仰られていたぞ。ご両親を失った悲しみが、高所恐怖症を引き起こしたと。それまで思い出させなかった記憶がこうも鮮やかに思い出すなんて」
何か原因があるのか?
首を捻る先輩に、俺はちょっと戸惑った。
原因は俺にある。
俺自身が開いちまったんだ、今まで封印していた記憶の鍵を。
高所恐怖症の原因を探ろうとあれこれプチ旅をして、記憶が蘇っちまったんだ。早く高所恐怖症を治したくって。
俯く俺に、「思い当たる節でも?」先輩が顔を覗き込んでくる。
「原因という原因はないんですけど」
しどろもどろになると、怪訝な顔を作る先輩はまさか、表情を一変。
「階段から落ちたのか? 今日、大雅から聞いた。あんた、階段から落ちそうじゃないか。以前にも階段から落ちて、頭をぶつけたショックが……」
「ち、違うっす! 俺はただ高所恐怖症を治したくって」
「高所恐怖症を治したかった? それはまたなんで」