前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
先輩は不思議そうに首を傾げた。
いや、だから、その高所恐怖症を治したら、少しはまともな男になれると言いますか。告白したかったと言いますか。観覧車に乗りたかったと言いますか。大雅先輩に嫉妬にしたことが発端と言いますか……あああもう、今日は感情に振り回される一日だなぁ。
唸る俺を余所に、無理に高所恐怖症を治さなくてもいいんじゃないか? と先輩。
それとも高所恐怖症が酷くなったから治そうと思ったのか、重ねてくる疑問に俺はそれもそうなんですけど……生返事。
ますます首を傾げてくる先輩は、
「まあ今は無理するな」
微苦笑を零して肩に手を置いてくる。
原因が分かった今、そう急いで治そうとしても悪化するだけだと助言してきた。
「十年、二十年、長い目で高所恐怖症と向き合っていかないと」
彼女の言葉に「それじゃあ駄目っす!」、思わず大反論。
「俺は最低でも半年っ、いや一年で治してしまいたいんっす」
「ご両親のことを想ってだろうが、あんたが、無理すればするほど悪化するだけだ。無理は」
「無理してでも治してしまいたいんですって。俺は早く先輩と観覧車に乗りたいんっすから!」
「へ?」「ぐっ」間の抜けた声が二つ上がった。
此処で自分の話題が出るなんて微塵も思ってなかったのか、先輩は目をひん剥いて俺を凝視。
「なんで観覧車?」
当然の疑問が飛んできた。
だって大雅先輩が鈴理先輩は観覧車が好きだと言ったから、どうしても一緒に乗りたかったんだ。俺は観念してその旨を白状した。
はしゃいでいる先輩の姿を、どうてしても目にしたかった。
てっぺんにのぼった時の先輩のはしゃぎようは凄いみたいだから。
彼女がどんな風に笑い、目を輝かせ、景色を見ているのか。
その横顔を見てみたかった。
大雅先輩が見られて俺が見られないとか、切ないじゃないか。
だから高所恐怖症を治そうと原因を探して探してさがして、どうしても治して先輩と見たかった。観覧車の絶景ってヤツを。先輩の無邪気に笑う可愛い姿を。
完璧に治して、告白もしたかったんだ。少しは見合う男になろうって。
だって俺は、この人に落とされてしまったから。
結果的に見合うどころか、八つ当たりしてコンチクショウになったへたれ男だけどさ。