前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「顔が赤いっすよ」
うへへ、一本取った。先輩真っ赤だ。
「喧しい! あんたも赤いわ!」
「当たり前じゃないですか、先輩に告白しているんだから。顔だって赤くなりますよ」
「ええい、あたしに向かって生意気な口を利くのはこれか?」
戻ってきた彼女が人の頬を挟み、荒々しくマッサージしてくる。
向けてくる瞳が真偽を見定めようとする。
逃げてばかりだった俺だ。
気持ちを疑われるのは当然。
なら信じてもらえるまで、彼女に好きだと言えばいい。
望んで所有物になっているのだと伝えればいい。
「大好きです」
へらっと笑えば、「この馬鹿者め」彼女が正面から俺を抱きしめる。
顔を見られたくないゆえの照れ隠しなのだろう。
「あまり言うとキスで黙らせるぞ」「それは嬉しい罰っすね」「鳴かせるぞ?」「うーん、俺の嬌声はきもいと思いますけど」「……エッチするぞ?」「もう少し時間を置いて考えましょうね」「今したい」「高校生じゃちょっと」「むぅ、空らしい。が」「が?」
間を置き、鈴理先輩が無邪気な笑みを零した。
「今までにないくらい空が近い。やっと空のすべてを手に入れた。全部、ぜんぶあたしのものだ」
それはきっと、観覧車から見た光景と同じ顔を作っているんだと思う。
あどけなく、子供っぽく、はしゃぎたい気持ちを抑えた嬉しい顔がそこにある。
眩しい笑顔に俺は目を細めた。
「先輩は不思議な人ですね。他人には言えない気持ちをすんなりと言わせる力があるんですから。俺の両親のことだって、俺自身の過去だって……こうして馬鹿みたいに情けなくしても貴方は好いてくれている。だからいつの間にか、俺も落ちていた」
抱きしめてくる腕が移動する。
真正面にあった体が真後ろに来るや、その腕が前に回り、背中にはぬくもりを感じた。
ギシッとスプリングが弾む。
「情けなくていい。あたしの前では素でいろ。無理して平然を装うより全然いい。責任を取ってやるから、あんたも責任を取って傍にいろ。そして攻め女として誓わせろ」
彼女は首筋に唇を落として囁いた。
「あんたのことはあたしが守ってやるさ。。過去の悲しみからもなにからも。支えてやるさ、崩れそうな時があっても。あんたのヒーローはあたしひとりで十分だ」
男前、じゃね、女前な台詞に俺は泣き笑いした。
守るなんて大それたことをヘーキな顔で言わないで下さいよ。
男の俺の立場がちっともないじゃないっすか。ほんっと、立場ねぇ。
まだ情緒不安定の俺は涙声で彼女に言った。
これしか言葉が思い付かなかったんだ。
「俺の傍に……ずっといて下さいね」