前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「戻って来たか、空」
彼女はパジャマ姿で窓辺に立っていた。
どうやら景色を見ているらしい。
恍惚に闇夜を見つめている。
さぞ夜景が綺麗なんだろう。
この部屋15階だから、俺には歩めそうにない。
顧みてくる先輩に戻ったと返事し、窓の外には何が見えるのか訊ねた。
間を置かず、彼女はネオンの幻想が見えると返答。
よく分からず首を傾げれば、先輩がトコトコとこっちにやって来る。
「よっこらしょ」の掛け声で俺の膝裏に手を入れるや満足げに人の体を持ち上げた。
対照的にバランスを崩し、先輩の腕の中に納まる俺は引き攣り笑いで彼女を見上げる。
前触れもなしに、お姫様抱っこはやめて下さりません?
先輩の腕力と、俺の置かされる現状二つに疑問と嘆きの声を上げないといけないじゃないか。
「ん? 空、体が冷たいぞ。ちゃんとぬくもってきたのか?」
冷水を浴びていた体は、彼女のぬくもりが異様に心地よく思える。
「……ちょっと体を鍛えてみようと思いまして、水浴びなんて少々」
嘘をついてもばれてしまうので、正直に白状。
途端に先輩は不機嫌になった。
「この馬鹿! 今の季節の水は体に毒だぞ。風邪でも引いたらどうするんだ。それともあたしにぬくませようとする新たな手口か? そうだとしても、だ。体を壊すことは禁止だ。いいな?」
そんな乙女思考は持ってませんのでご安心を。
「取り敢えず、おろして下さい」
俺の訴えを退けて、先輩は目を瞑るように言う。
目を……?
まさかヤーンなことするんじゃ。
訝しげに彼女を見つつ、俺は従順に瞼を下ろした。指示に従わなかったら後が怖いしな。
俺が目を閉じている間に、先輩は移動を開始。
ほどなくして目を開けても良いと許可が下り、そっと俺を下ろしてくれた。
ゆっくりと目を開ければ、綺麗な窓ガラス。反射している窓ガラスを見た瞬間、俺は恐怖のあまり悲鳴すら上げられなかった。
こ、此処は窓辺っすか! ちょ、俺、高所恐怖症! なにっ、俺を窓とかいたらん場所に連れて来てるんっすか!
顔面蒼白、俺は急いでこの場から逃げようと試みる。
けれども先輩が手首をしっかり掴み、見事戦闘離脱に失敗。