前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「最初にあんたに出会ったのは、今から一年前。市民図書館だ。ほら、あんたが受験勉強をしていたという、あの図書館だ。習い事に行く前に、あそこで本を借りるのが当時あたしの習慣でな。
恋愛小説を借りては返し、また新しい小説を借りる。
借りては返し、借りては返し、あたしは読みふける恋愛に憧れを抱いていた。
その頃のあたしは恋愛にすこぶる憧れを抱いていてな。
姫のような男の娘が現れて、守りたいと思うような感情に駆られたいと思っていた。
ふふっ、昔も今も根っからの攻め女だったんだ、あたしは。好きなタイプは今と随分違ったが。
ある日、あたしはいつものように図書館に向かった。
そこでおや、見慣れない学生がいると気付いた。それが空、あんただ。
図書館の常連になっていたあたしは、大体の常連客の顔は憶えていたんだ。
時々見慣れない顔がいると、何かレポートでも書きに来たのかと思うほど、あたしはそこの常連だった。
空は眉間に皺を寄せて、参考書を開いていた。
勉強しているんだと分かったんだが、思うことはなく最初はそれで終わった。
そして帰る時だ。
たまたまあたしと同じ時間帯に図書館に出た空が独り言を呟いたんだ。
『金のある奴には負けて堪るか。あいつ等は暇人ばっかだ』
それがあたしには、まあ、腹立たしくてな。
なんだそれは金持ちに対する当て付けか? 金持ちには金持ちの悩みがあるんだが。
カチンときたあたしは、そいつの顔をすぐに憶えた。
空は毎日のように図書館に来始めた。
あたしが図書館に行ったら、必ずあんたがいて勉強をしている。
時間のある奴はいいよな、そうやって悠々図書館で勉強できるのだから、とあたしは心中で皮肉った。
なんというか時間を自由に使えている空が羨ましくて妬んでいたんだ、その頃は。
どーせその内、飽きてどっかに行くだろう。
それまでの辛抱だと思っていたんだが、あんたは何ヶ月経っても毎日図書館に来る。
ええい、あたしへの当て付けか! 折角のお気に入り場所を汚された!
苛々しながら毎日通っていたさ。何を勉強しているか知らんが、さっさと消えちまえと何度思ったか」