前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「八日目のことだ。
あたしは顔見知りとなっていた館長を通じて、あんたの家事情を知ることとなる。


『あの少年は家が貧しいそうで、塾に通えずに此処で勉強しているのですよ。随分と難しい高校を受けるみたいで。どうやら働く道を選んだようですが』


あっ、とあたしは思った。

あいつは金のない悩みを持っているんだ。事情で塾に通えないんだ。けど、どうにか自分で状況を変えようと足掻いていたんだ。

金持ちゆえに悩みがあるあたし、それとは正反対の悩みを持つ中学生。惹かれるものがあった。


幾日過ぎた頃、空の手元が求人誌から参考書に戻ったことに気付く。

それについて館長に聞くと、『最後まで頑張ってみるらしいですよ』自分の置かされている環境に屈していたというのに、あれから立ち直った、だなんて。


それから、ちょっとあんたの見方が変わった。

毎日図書館に通い詰めているあんたの勉強風景を、恍惚に見るあたしがいたんだ。


今の環境に屈せず、自力で変えようとするその姿が微笑ましくてな。

次第に応援する立場になった。あんたの独り言で『塾生も頑張っているんだしな』と聞いて、もっと微笑ましくなった。


声を掛けてみたくもなったが、何を話せばいいのか……。


段々楽しみにもなってきた。

図書館に入り、あんたを目で探して、空が溜息をついている姿を見ると、ああ今日は調子が悪いんだなと思ったし。空が嬉しそうに綻んでいるのをみると、あっ、今日は良い点でも取れたんだなと思った。


一喜一憂している姿が可愛く見えてきたんだ。

べつだん童顔というわけでもないのだが、あんたの直向きな努力姿に可愛いと思うようになった。

満面の笑みを偶然に見掛けた時は、本当にこっちまで心があったかくなった。馬鹿みたいに。


そうか、あたしはあいつには恋をしているんだ。


自覚をしたあたしはあんたを観察するようになった。

勉強している空の前左右に座ったこともあるし、ちょっと勉強内容を覗き込んだこともあった。声を掛けたくなってやきもきしたあたしは、図書館から出てあんたを暫く付けたこともあったんだぞ。

ふふっ、ストーカーっぽいな」

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