前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―


「そして完全にあんたに落ちた瞬間がくる。

その日は寒い冬だった。本当に寒い日で雪がちらついていた。
閉館時間になる頃には吹雪いていて、到底外には出られそうにない。

あたしはエントランスホールで迎えを待っていたのだが、幸運なことにあの中学生もホールにいる。今が声を掛けるチャンスなんじゃ。


そう思っていた矢先のこと、空と目が合う。

今まで視線を交わしたことがあれど、意志を宿して視線を交わしたことはなかった。

向こうはどんな顔をするのか、反応を待っていると空はさり気ない表情で笑い、あたしに一言掛けた。



『凄い雪ですね』



誰でもない、あたしに向けられた言葉と笑み。


ああいう奴こそ守ってやりたい男なんじゃないかと思った。

そうだ、あたしは素性もよく知らない、あいつに恋をした。守ってやりたい奴に恋をしたんだ。


これは何かの運命だと思った。

絶対にあんたと繋がりを持ってやる。


意気込むも間の悪いことに、あたしの迎えが来てしまった。返事すらできず、ただただ会釈をして後にする。


それが空を見る最後の姿だとは、当時思いもしなかった。



雪が続く季節が巡る中、空は図書館に来ない。毎日まいにち待っても空は来ない。

ああ、受験はどうだったんだろう。受かったのか、落ちてしまったのか、こんなことなら声を掛けておけばよかった。返事をしておけば。


悔いて悔いて悔いて仕方が無かった。


あんなにときめく男は初めてだった。

最初こそ腹立たしいと思っていたのに……状況を変えようとする強い男は滅多にお目に掛かれない。食ってしまいたい男だったというのに、ああ、失恋だ。


溜息ばかりついていた入学式以降の春、あたしはまたあんたを見つけることに成功した。


『そーら! 早くしろってっ、オリエンテーションが始まるぞ!』

『待ってよ、アジくん。エビくん!』


廊下を駆ける新入生の中にあんたを見つけた。

まさか、この学院受験希望だったなんて。神様の悪戯か。それともこれも運命だったのか。

なんにしろ、あんたが受かっていたことにあたしは喜んだ。自分のことのように。並行してあたしは失恋した熱を再び滾らせて決意する。

今度こそ、あいつを落とす、と」


< 377 / 446 >

この作品をシェア

pagetop