前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「そして完全にあんたに落ちた瞬間がくる。
その日は寒い冬だった。本当に寒い日で雪がちらついていた。
閉館時間になる頃には吹雪いていて、到底外には出られそうにない。
あたしはエントランスホールで迎えを待っていたのだが、幸運なことにあの中学生もホールにいる。今が声を掛けるチャンスなんじゃ。
そう思っていた矢先のこと、空と目が合う。
今まで視線を交わしたことがあれど、意志を宿して視線を交わしたことはなかった。
向こうはどんな顔をするのか、反応を待っていると空はさり気ない表情で笑い、あたしに一言掛けた。
『凄い雪ですね』
誰でもない、あたしに向けられた言葉と笑み。
ああいう奴こそ守ってやりたい男なんじゃないかと思った。
そうだ、あたしは素性もよく知らない、あいつに恋をした。守ってやりたい奴に恋をしたんだ。
これは何かの運命だと思った。
絶対にあんたと繋がりを持ってやる。
意気込むも間の悪いことに、あたしの迎えが来てしまった。返事すらできず、ただただ会釈をして後にする。
それが空を見る最後の姿だとは、当時思いもしなかった。
雪が続く季節が巡る中、空は図書館に来ない。毎日まいにち待っても空は来ない。
ああ、受験はどうだったんだろう。受かったのか、落ちてしまったのか、こんなことなら声を掛けておけばよかった。返事をしておけば。
悔いて悔いて悔いて仕方が無かった。
あんなにときめく男は初めてだった。
最初こそ腹立たしいと思っていたのに……状況を変えようとする強い男は滅多にお目に掛かれない。食ってしまいたい男だったというのに、ああ、失恋だ。
溜息ばかりついていた入学式以降の春、あたしはまたあんたを見つけることに成功した。
『そーら! 早くしろってっ、オリエンテーションが始まるぞ!』
『待ってよ、アジくん。エビくん!』
廊下を駆ける新入生の中にあんたを見つけた。
まさか、この学院受験希望だったなんて。神様の悪戯か。それともこれも運命だったのか。
なんにしろ、あんたが受かっていたことにあたしは喜んだ。自分のことのように。並行してあたしは失恋した熱を再び滾らせて決意する。
今度こそ、あいつを落とす、と」