前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「次、どれ読もう」
なるべく早く読んでしまって、感想対策を考えないと追々酷い目に遭うのは目に見えている。
色んな意味で泣きそうになりながら文庫を手に取っていると、母さんが仕事から帰宅してきた。
あ、もうそんな時間か。
なんて思いつつ、俺は文庫を片付けて机に置くと、「おかえり」母さんの方を見ずに挨拶。
もうちょい普通な態度を取れよ俺、なんか超素っ気無いぞ。
軽く吐息が出る一方、母さんはいつもどおりただいまって言葉を返してくれる。
この申し訳なさといったら、マジごめん母さん。
反省はしているんだ、反省は! ただっ、どう接していいか分からなくて。
心の中で弁解する俺を余所に、母さんは今から夕飯の仕度をするからと話題を切り出した。
「あ、え、うん」
どぎまぎ返答の後、俺も手伝うと机から離れた。
ジャガイモを洗い始める母さんは、洗ったジャガイモの皮を剥くよう指示。
俺は包丁を片手に早速、皮剥き開始。
黙々とジャガイモの皮を剥く。
「空さん、最近はどうです? 学校楽しい?」
振られた話題に、「うん」俺は小さく返事をする。
楽しいよ、皆、面白い人達ばかりだし、努めて会話を繋げようとするんだけど出てくる単語が短いのばっか。
なんでこうなっちまうのかな、普通に接しているつもりなのに、どことなく素っ気無く感じる。
「そう。それは良かった」
母さんは笑声を漏らして洗ったジャガイモをボウルに入れた。
「鈴理さんとは上手くいっています? ちゃんと女の子に気遣わないと、すぐ見切られてしまいますよ」
うっ。
母さん、それ辛辣。
確かに、気遣われっぱなしで申し訳なく思っている今日この頃だ。
ちょっと言葉を詰まらせる俺に、「ふふっ」母さんは可笑しそうに笑ってくる。一の字に口を結ぶ俺はチラッと相手を流し目。
ばしゃばしゃ豪快にジャガイモの泥を落とす母さんの横顔を見て、ふと思った。
俺と母さんは似ていないな、と。
父さんと俺は血縁がないわけじゃない……だって父さんは信義父さんと兄弟だから。
似ているかどうかと聞かれたら、あんまり似ていないんだろう。