前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
ご子息令嬢が遠目を作っているけれど、無駄の積み重ねは赤字に繋がるんっすよ。
先輩方、知らないでしょ! これだからお金持ちさんは!
心中でヤーレヤレと溜息をつきつつ(表に出したら喧嘩売ってるようなもんだしな!)、俺は改めて二人に心遣いだけ受け取っておくと一笑。
自分の足で帰ることを伝えて、今度こそ迎えを待つ先輩達と別れた。
さてと今日は家に帰って何をしよう。
勉強は勿論だけど、あ、そうだ、先輩から押し付けられた文庫読まないとな。
感想報告しないと、先輩にどーんなお仕置きされるか。
ちょいと想像して身震い、か、考えなかったことにしよう。
(……ん?)
正門からさほど距離のない曲がり角を曲がったくらい辺りから、俺はなにやら気配を感じていた。
なんというか、かんというか、びみょーに付けられている気がするんだよな。気のせいか。
うん、気のせいだろ。と、言い聞かすものの、チラッと後ろを一瞥してみれば、見るからにイカついオッサンが俺の後をつけてきている。
もしかして先輩のガードマンさんかな?
いやでも、ガードマンをつけられるほど、なんかあったわけでもないし。
空元気な俺を心配しての手配にしては、雰囲気が違うような、ないような。ははっ、考え過ぎか。
だけど、なんかヤな予感してきたから、
「あ。宿題のプリント忘れた」
俺は足を止めてわざわざ道を渡り、素早く踵返した。
ちょっと先輩方のところに戻ろう。
付けてきているイカついオッサンが怖い。
杞憂だったらいいんだ、杞憂だったら。
正門で待っているであろう先輩達には忘れ物しちゃって、とか言い訳できるから。
道路を挟んでそそくさと学校に戻ろうとする俺を見たイカついオッサンは、そのまま素通り……ではなく、踵返して俺の後を追って来た。
確定。
俺はこのオッサンに付けられている。
ま、待て待て待て、俺はオッサンに何かしちまったか?
喧嘩を売るような真似でもっ……と、取り敢えず落ち着け、知らない振りだ。
だけど気付かない振りをするにも、距離が縮まっている気がする。
気配オーラが近いっ、近付いている!