前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
07. 今夜限りのヒーロー
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―――ぁ……ら……空。
ぐらぐらっと揺れる淡い意識の中、誰かが俺のことを必死こいて呼んでいる。
目を覚まさなきゃいけないって分かるんだけど、意識が沈んで浮いて沈んで浮いて。すぐには反応を示せない。
ついでに脳の芯が痛い。
なんでこんなに痛いのか、嗚呼、思い出そうとするだけでもズキッと頭部に痛みが走る。
「空」
また名前を呼ばれた。
そろそろ起きないと、そろそろ目を覚まさないと、誰かが悲しそうな声で呼び続けているから。
薄っすらと瞼を持ち上げる。
視界が悪いようだ。
目を開けているのにも拘らず状況がよく把握できない。
それとも俺の眼球が汚れている? 目薬が必要かな。
と、視界は人間で覆われる。
「気が付いたか」
ホッとしたような顔で俺を見下ろしてくるのは、かの恋人。
「せんぱい」
身を起こそうとすれば鋭い頭痛が。
それになんか上手く体が動かせない、なんで?
「無理をするな空。あんたは誘拐犯に頭部を強打されたんだ」
誘拐犯に?
たっぷり間を置き、ぱちぱち、瞬きをした後、「誘拐?!」素っ頓狂な声音を上げて腹筋に力を入れた。
両腕が使えないのは縛られているからだ。
ロープで縛られているみたいだ。
縄のチクチクした感触が肌に食い込む。
どうにか身を起こす俺は、「誘拐ってどういうことっすか」鈴理先輩を見つめる。
「憶えていないのか?」
同じように腕を縛られている鈴理先輩の心配そうな面持ちを認識した俺は、段々と記憶が蘇ってきた。
そうだ、俺はイカついオッサンに付けられて……追っ駆けられて、そのままワゴン車に。
俺の声を聞きつけた先輩が様子を見てきて……くそっ、途中で失神しちまったけど、先輩が一緒って事は彼女も誘拐されちまったってことだ。
逃げられなかったんだ。
いや、彼女のことだから失神した俺を盾に取られて乗るよう脅されたに違いない。
先輩は、こういう緊急事態用に合気道とかそういった護身用の体術を習っているんだ。ちょっとやそっとじゃやられないだろう。
「すみません。巻き込んでしまって」
謝る俺に、「馬鹿だな」あんたのせいじゃないだろう、と先輩。
「悪いのは誘拐した奴等だ、気にするな」
慰めの言葉を掛けてくれる先輩は、重ねて詫びを口にしてくる。なんで彼女が謝るんだろう?