前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「実はな空。あんたが狙われたのは、あたしと大雅のせいなんだ」
「へ? なんでお二人の?」
「あんたが竹之内財閥と二階堂財閥の令嬢令息と交流していたからだ」
先輩曰く、誘拐犯の目当ては身代金。
簡単に言えば、金欲しさで誘拐という名の犯罪を犯したらしい。
だけど財閥の令嬢令息を誘拐すれば大騒動になるから(そりゃあ財閥の子供だしな)、なるべく金がありそうで、財閥の子供ではないエレガンス学院の生徒を狙っていたとか。
元々エレガンス学院はお金持ち校だからな。
偏差値が高いと名が通っている一方で、金持ちの行く学院だと思われがち。今もその風評は変わらない。
彼女が言うには、正門で和気藹々と鈴理先輩、大雅先輩と話していた俺がどっかの坊ちゃんだと思われたらしい。
財閥繋がりの子供に違いない、と勘違いされたんだ。
あいつなら金がありそうだっていうことで、襲われて誘拐されて今に至る。
鈴理先輩は申し訳無さそうに教えてくれた。
ちなみに全部、誘拐犯達が会話していた内容を盗み聞きしていたらしい。
これこそ彼女のせいじゃないから、「気にしないで下さいっす」俺は目尻を下げた。
例えこういうことが想定できたとしても、俺は鈴理先輩と大雅先輩を恨んだり避けたりしようとは思わない。悪いのは誘拐犯だしな。
「大雅先輩は無事なんっすか?」
「ああ。空の声が聞こえた気がして様子を見て来ると言ったあたしに対し、あいつは正門で待つと言っていたからな。当然、あたしが戻らないことに疑心を抱き、何かあったのだと気付いているだろう。あいつも誘拐や事件には人五倍神経を研ぎ澄ましているからな。連絡してくれている筈だ」
「なら良かった」
……それにしても、俺、金持ちの坊ちゃんだって思われたんだ。どうしよう、その逆なのに。
俺は首を捻ってぐるっと状況を把握。
どうやら倉庫の一室に閉じ込められているようだ。
錆びた工具の袋や鉄パイプの束、見慣れない大型機械が無造作に置かれている。
窓もある。
雨風で汚れたガラス窓の向こうから弱々しい夕陽が。もう日は暮れそうだ。
あ、俺等の通学鞄もあるみたいだ。チャックの開いた鞄が不貞腐れ顔に転がっていた。
「あいつ等が鞄の中を漁ってな。携帯を奪われてしまったよ」
連絡手段は途絶えているらしい。
「そうっすか」肩を落とす俺に、「安心しろ」先輩は希望を宿した眼を向けてきた。