前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「あたしの通学鞄とローファーにはGPSチップが組み込まれていてな。あたしの居場所はすぐにばあや達が特定してくれる。もう特定している頃だ」
「ジーピーエス? なんっすかそれ」
機械は弱いんだって、俺。
「簡単に言えば、衛星を通して自分の居場所を教えてくれる優れものさ。昔、妹の瑠璃が誘拐されそうになってな。
心配した両親が四姉妹各々にGPS機能の入ったチップを靴や鞄に組み込んだんだ。おかげで常に見張られている気分になるが、今回はこれが役立ったな」
とにかく凄いものなんっすね、GPS機能ってのは。
なるほど、相槌を打つ俺はこれからどうなるんでしょうっと彼女に尋ねる。
居場所がすぐに割り出せるなら、助け出されるのも時間の問題だと思うけれど。
「いや」
先輩は眉根を寄せた。
「警察に連絡が行き渡っていても簡単には救出されないだろう」
何故なら、人質が二人もいる。
人質がいたら警察も下手に動けない。
誘拐事件なら尚更、と声を窄める。
「ただな。リーダーらしき男と、攫った男二人が先ほど揉めているようだった。チームワークには亀裂が入っているだろうな」
「どうしてっすか?」
「最初にも言ったが、奴等の目的は空であってあたしではなかった。
何故なら、あたしは財閥の令嬢だからな。誘拐してしまえば騒ぎが大きくなってしまう。
そういう対策も考えられているだろうし、奴等にとって不都合極まりない。案の定、騒ぎは大きくなっているようだったしな。あたしを攫ったことは失敗だったというわけだ。
まあ、どちらにしてもあたしが目撃者になってしまったことで、計画の歯車が狂い始めていただろうが……。
どうやら向こうも犯罪のプロというわけではなさそうだ。
日の高いうちから、学校近場で誘拐など……よほどの自信家だと思うぞ。あくまで一見解だがな。
だがあまり良い状況でもないな。さてと、どうしたものか。奴等はもう身代金要求も出しているしな」
「う、うちの親にっすか?」
「ああ。さっき此処で電話のやり取りがあったんだ。あたしと息子の命が惜しければ、二千万円を用意しろと」
「に……に、二千万円?!」