前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
度肝を抜く金額に俺は目をひん剥いた。
ということはなんだ。ひとり一千万ってか? 無理に決まっているだろう。
百万だって出せるかどうか分からないのに、一千万なんてお前等、路頭に迷え! そう命令されているのと一緒だ。
どんだけ俺の家が苦しいか知らないだろ、誘拐犯さん達よ!
……ガチな話、我が家は大金なんて出せるわけがない。一生借金生活を送れと言っているのと同じだ。
大パニックになってないといいけど、父さん、母さん。
――ガチャ。
向こうの鉄扉の鍵が解除され、ドアノブが重く回る。
先輩と身を強張らせて視線を投げれば、イカついオッサンを始め、犯人さんらしき人物が四人。
ガタイがよく、みんないかにもって顔。
つまりワルそうな人相をしている。
俺が目覚めたことに気付いたスキンヘッドオッサンは、「丁度いい」なんて口端を歪めて歩んできた。
なあにが丁度いいのか分からないけど、く、来るんじゃない! 貧乏人を苛めたってびた一文でないんだからな。
うをおいい! 何するんだよっ!
胸倉を掴まれて、無理やり立たされた俺はへたれなことにドッと冷汗。
「空!」
先輩が動こうとすれば、スキンヘッドオッサンが容赦なく女性に向かっておとなしくしろとばかりに張り手を食らわせた。
「先輩!」
倒れる彼女を気遣う間もなく、俺は引き摺られて例のイカついオッサンの下に引き摺られた。
取り敢えず抵抗の意を示すためにギッと相手を睨めば、俺にも容赦ないビンタが飛んできた。
痛っ、生意気な目はいらないってか? そりゃスンマソっすね。
ついでに口の中が切れたみたいなんっすけど。鉄のお味がする。痛いっつーの。
所詮子供の抵抗だ。
リーダーさんらしきスキンヘッドオッサンは、「構うな」命令を下して、イカついおっさんにさっさと出せと促す。
何を出すか、疑問を抱く前に携帯電話を鼻先に突きつけられた。
これは俺のガラケー、正しくは先輩に借りた携帯電話だ。
ディスプレイには『通話中』と『非通知』いう二単語が表記されている。
すこぶる嫌な予感がしてきた。
「今、お前の親に繋がっている。声を聞かせて欲しいそうだ。向こうの女は、さっき聞かせてやったからな」
スキンヘッドオッサンが声を聞かせてやれ、俺に命令を下してくる。
声を両親に聞かせて、早く身代金を用意させる魂胆か畜生。