前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「空、果物を食べよう。蜜柑を取り寄せたんだ。待ってろ、今剥いてやるからな」
毎日、見舞いに来てくれる鈴理先輩はこうして俺の世話を甲斐甲斐しく焼いてくれる。
嬉しいんだけど蜜柑を取り寄せたって……お取り寄せ商品っすか、その蜜柑。
八百屋さんじゃなく産地直送の物を持って来てくれているんじゃ。
「その右手じゃ剥けないだろうしな」
ギブスをしている右手を流し目にする先輩は、さっさと果物カゴから蜜柑を取って皮を剥き始める。
右腕を撃たれたせいでトホホ、ギブスをしている俺は現在生活に四苦八苦している。
右手は利き手だ。
飯を食うにも何をするにも一苦労している。
学校に復帰したらもっと苦労するだろうな。特に筆記なんてマジ憂鬱なんだけど。こんな手で勉強できるのか?
綺麗に蜜柑の皮を剥いてくれた先輩は、「よし」満面の笑顔で房を差し出してくる。
「あざーっす」
左の手で受け取ろうとすればペチン。ええええっ?! 叩き落とされた意味が分からない。
「空。こう言ったら口に入れてやるぞ」
先輩はニコッと一笑。
「“先輩の手で、俺の口にその蜜柑を入れて下さい”。恥じらいながら言ったら食わせてやる」
「なんっすか。そのやけにオゾマシイ羞恥プレイもどきは」
台詞は普通なのに、全然普通に聞こえないのは何故だ。
「それは空があたしを求めているような台詞に仕向けているからな。濡れ場も、是非それに似た台詞を言って欲しい」
無理に決まっているでしょ!
下心感ありありの台詞を蜜柑を通して言うとか、絶対にイヤなんだけど。
「じゃあいらないかなー」
弱々しく発言してみる。
当然向こうが許してくれる筈もなく、
「従えないと言っている悪いお口はこれか?」
顎に指を絡めて引き寄せてくる彼女に、俺はドッと冷汗。
ヤ、ヤダなぁもう。
いーつもの肉食先輩に戻っちゃってからくさ。
ちょっと前まで男女逆転の逆転、つまり普通の立ち位置になっていたのに……ははっ、やっぱ返さなきゃいけないっすよね。男ポジション。
もうちょっとだけ味わいたかったんっすけど。