前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
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前略、今日も不況の波に抗っている父さん、母さん。
あ。宛先がちっげぇ。
仕切りなおして、前略、天国で不況の波があるかどうか分かんないけど、一応抗っているであろう父さん、母さん。
息子の豊福空は色んな事件を経験して、今日も元気に学校に登校しております。
そりゃあもう元気です。
未だに完治していない横っ腹の痣や撃たれた右腕その他諸々を総無視して只今昼休み、絶賛全力疾走中です。
「こら空、何故逃げる!」
「逃げるに決まっているじゃないっすかっ! なんでっ、なんでっ、完治していない怪我人を襲おうとするんっすか! イミフっす!」
「失敬な! 襲うとはしていない。怪我の具合を診ようとしているだけだ。まあ、ついでにセックスを」
「ほっらぁああああ! そのミエミエ下心! 俺は断固としてヤりませんからね!」
ドタドタドタ。
前みたいに平気になった階段を飛び下りて猛ダッシュする。
背後で同じく可憐に階段を着地する鈴理先輩は、傷を癒してやるだけだと言って追い駆け回してくる。癒し方に問題ありっすよ!
どうせ舐めるとか、ちゅーとか、畜生とかっ、するつもりでしょぉおお!
「うわああんっ、先輩のケダモノ!」
嘆く俺に、
「光栄な褒め言葉だな」
後で覚えてろよ、と意地悪くニヤリ。
攻め心をもっと焚きつかせてしまった馬鹿な草食系男子は、より悲鳴を上げながら颯爽と廊下を走る。
廊下は走っちゃなんない?
貞操の危機にいけないも何もあるか!
先輩に追いつかれそうになった俺は、咄嗟の判断で自分の教室に逃げ、談笑していたフライト兄弟を盾にする。
「追いついた」
超満面の笑顔で俺を見てくるハンター竹之内に、千行の汗を流して「ごごご慈悲を」取り敢えず懇願してみる。
無駄だって分かっていても、まずは直談判。
俺の訴えを綺麗に無視する先輩は、フライト兄弟が邪魔だと思ったのか彼等にご命令。
「そこを退け。でなければ、困ったことをするぞ。そうだな……メイドコスというものを、うちの彼氏共々してもらおうと」
「空。お前の彼女がお呼びだ」
「空くん、逃げちゃ駄目だよ」