前略、肉食お嬢様―ヒロインな俺はお嬢様のカノジョ―
「元気出して下さい」
俺は慰めの言葉を掛けた。
「頑張って探し続ければ、一つくらいあるっすよ。星の数だけ小説があるなら、きっと何処かに先輩の求めるお話がありますって。無いなら先輩が書いてみればいいじゃないっすか。書く人も多いんでしょ?」
ぶーっと脹れ面を作りながら鈴理先輩は無理だって口にする。
「あたしは読む専門だ。文才は無い。何よりあたしは理系だ。文字より数字なのだよ」
「じゃあ何か他のモノで補うことは? 例えばスポーツで気を紛らわすとか」
恋愛小説から一旦距離を置いて、別のことをしてみれば気鬱な気持ちも晴れるんじゃないか。
スポーツなら全般的に得意だ、先輩に付き合えるぞ。夜の運動という名の大人の時間以外なら!
俺の言葉に鈴理先輩がジーッと見つめてきた。
「空」「え、はい、何っすか?」「空」「あのー、鈴理先輩?」「空」「……まさか俺で補うつもりっすか?」
「萌え不足はリアルで補うしかない。空、今からあたしの下で鳴け!」
「先輩、最初から絶対それが目的でしょっ、ちょちょちょちょぉおお先輩! ストップ暴走本能っすぅうう!」
悲鳴を上げる俺は危うく椅子から転倒しそうになった。
隣に座っている先輩が全力で押し倒そうとしてきたんだぜ? マジ、踏ん張った俺を褒め称えたい。
「チッ」
押し倒しに失敗した先輩は盛大に舌打ち。俺は引き攣り笑い。
此処が何処だか分かっての行動なのでしょうか、先輩。
貴方様の教室ですよ。
俺は貴方様の教室にお邪魔させて頂いているんですよ。
なんで俺が先輩の教室にいるかというと、鈴理先輩が俺に渡したいものがあるからと言ってきたから。
こうやって昼休みの時間を使って、教室にお邪魔させてもらったんだ。
鈴理先輩のクラスは女クラ(女子クラス)だから、ちょっとお邪魔させてもらうのに抵抗があるんだけど、無理やり引きずり込まれたことが過去何度あったかを思い返せば抵抗心も霧散する。